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人間の心情を丁寧に描くドラマ「三体」は、自分の人生に刻むように視聴する作品【#エンタメ視聴体験記/ぼる塾・酒寄希望】

 お笑い芸人・ぼる塾の酒寄希望さんが、WOWOWの多岐にわたるジャンルの中から、今見たい作品を見て“視聴体験”を綴る、読んで楽しい新感覚のコラム連載企画「#エンタメ視聴体験記 ~酒寄希望 meets WOWOW~」。 
 今回は、「SF超大作『三体』」を見た体験を酒寄さんならではの視点で綴ります。

 文=酒寄希望

 皆さんこんにちは。ぼる塾の酒寄です。
衝撃的な作品に出合うと、私はその作品に日常を支配されてしまいます。常にその作品のことを頭で考えてしまい、登場人物のことを、私はその人物の親なのか? というくらい考えてしまいます。

 今の私は大変です。今、私は地球に住む人類全員のことを考えています。
そして、今回私が紹介するのは「SF超大作『三体』」です。

2007年、北京オリンピック開催間近の中国。ナノ素材(マテリアル)の研究者・汪ミャオ(ワン・ミャオ)は、突然訪ねてきた警官・史強(シー・チアン)によって正体不明の秘密会議に招集される。そこで世界各地で相次ぐ科学者の自殺、そして知り合いの女性物理学者の死を知らされた汪ミャオ。一連の自殺の陰に潜む学術組織“科学境界(フロンティア)”への潜入を依頼された彼は、科学境界の“主”を探るべく、史強とともに異星が舞台のVRゲーム「三体」の世界に入るが、そこにはある秘密が……。

WOWOWオンデマンド(公式サイト)より

 ドラマ「三体」は、世界累計発行部数2,900万部超え、20カ国以上の言語で翻訳された世界的大ベストセラー小説「三体」の映像化作品です。原作はバラク・オバマ元米大統領、マーク・ザッカーバーグ、ジェームズ・キャメロンと、各方面の著名人たちもそろって絶賛しています。私もこの評判を聞いてずっと気になってはいたのですが、【中国のSF】 【1冊が分厚い】【全6巻】という、ものすごいハードルの高さがあり躊躇していました。ですからこのドラマ版の存在を知ったときは、

 私「こりゃいいや!」

 と、「だめだこりゃ」のいかりや長介さんの逆をいく、逆いかりや長介さんになり視聴することを決めました。

 私「え、待って。ドラマ『三体』って全30話もあるの?!」

 1話約50分×30話。ここ数年長編ドラマから遠ざかっていた私にとって、ドラマ版も結構高いハードルでした。

 私「しかも中国のドラマだから登場人物の名前を覚えるのが難しいぞ…。どうやら物理が関係するみたいだし、学生時代に理系から逃げまくっていた私に理解できるのか。そもそも、ドラマを見る前のあらすじを読んだ時点でちょっともうよく分からない。学術組織“科学境界”?」

 私は、「もしかしたら途中でだめだこりゃ、の可能性もある」と、自分が本来のいかりや長介さんに戻る可能性も踏まえて視聴を開始しました。

 ~ラスト30話視聴中~

 私「…すばらしい! ラストがこうなるのかー!」

 私は生まれて初めてドラマの最終話のエンディングを見ながらスタンディングオベーションをしました。私はドラマ「三体」を脱落するどころか、「三体の続きが見たくて早く目が覚めてしまった」と、朝4時起きして見るほどのめり込んでいました。ドラマの続きを見るたびに夫をつかまえて、

 私「ちょっと聞いてくださいよ。汪ミャオが今ピンチで」

 夫「汪ミャオより確定申告とか大丈夫なの?」

 私「確定申告よりも、汪ミャオなんです!」

 夫「後であなたもピンチになるよ」

 ※確定申告もきちんとやったので安心してください。

 この湧き上がる感動をどう表したらいいのか分かりません。皆さんもありませんか? とても感動して布教したいのに、説明するのが難しい作品。私にとってそれがドラマ「三体」です。

 私「私がマーク・ザッカーバーグだったらもっと話は早いのに! 酒寄さん絶賛! このワードに果たして力はあるのか?」

 私が布教しなくても「三体」がもう十分有名なのは分かっています! でもどうしても自分の言葉で感動を表したい! 人に何かをプレゼンするのがうまい相方の田辺さんに相談したところ、

 田辺さん「そういうとき一番使える言葉があるよ。『頼むから見て!』って言うの」

 私「頼むから見て!」

 …もう少しだけ頑張ってみます。

 この物語は世界各地で科学者の自殺が次々に発生していくところから始まります。その中のひとりに主人公、汪ミャオの知り合いの女性物理学者がいて、彼女の遺書にはこう書かれています。

「すべての証拠が示す結論はひとつ。これまでも、これからも、物理学は存在しない。この行動が無責任なのはわかっています。でも、ほかにどうしようもなかった。物理学は存在しない」

「SF超大作『三体』」本編より

 私「彼女が自ら命を絶った理由は『物理学が存在しない』からなの? これはどういうこと? 物理学がないと駄目なの?」

「SF超大作『三体』」:ⓒ TENCENT TECHNOLOGY BEIJING CO., LTD.

 物理学になじみがなく、私の頭の中にすでに物理学が存在しない状態だったので、私は視聴脱落を最初の数分で覚悟しました。

 私「主人公の彼(まだ名前が覚えられていない)は自殺した科学者たちが関わっていた謎の組織の会合に最近お呼ばれしていたから警察の人に呼ばれたと。で、主人公に組織のスパイをしてほしいと…」

「SF超大作『三体』」:ⓒ TENCENT TECHNOLOGY BEIJING CO., LTD.

 主人公、汪ミャオは、事件に関わっていくことに乗り気ではないのですが、ある日、彼の視野に突然カウントダウンが現われるという謎の現象が起こります。何のカウントダウンなのか不明なのですが、刻一刻とその数字は減っていきます。このカウントダウンは汪ミャオにしか見えないようで、彼は恐ろしい恐怖とひとりで戦うことになります。しかし、本当はひとりではないのです。

 そう、視聴者の私にもカウントダウンは見えているのです。

 私「やだ! すっごく怖い! これ0になったらどうなるの?! もっと周りの人は汪ミャオを心配してよ! これが疲れ目なわけないでしょ!」

 このカウントダウンを一緒に体験したことにより、私は視聴者というより、まったく役に立たないけど汪ミャオとともにこれから巻き起こる数々の恐怖や難題に立ち向かっていくひとりの気分になります。私が役に立たなくても警察官の史強という、かけがえのない相棒が汪ミャオにはできるので、そこは問題ないです。ドラマ「三体」はバディーものとしてもすばらしいです。

 物語が進んでいくと、「宇宙のどこかに“主”という存在がいる。主は圧倒的な力を持つ。主はどうやら地球を狙っている」ということがうっすらと見えてきます。その主に近づくためにVRゲーム「三体」というものが登場して…。

「SF超大作『三体』」:ⓒ TENCENT TECHNOLOGY BEIJING CO., LTD.

 私「私はとんでもないドラマに出合ってしまった…。このドラマはバケモノだ」

 お伝えしておくと、ドラマ「三体」の序盤はゆっくりと進みます。ですが、このゆっくりが大事だと思うのです。映画「タイタニック」が1時間の作品だったらラストにあれだけの感動があるのでしょうか? もしも、序盤からハイスピードで展開していたら、私は「三体」に登場する人々が自分と同じ【人間】であることに気付けなかったかもしれません。

 汪ミャオと史強の関係もそうですが、私がこの作品に惹かれた一番の理由は【人間】の描写です。人間をとても丁寧に描いてくれています。彼らは生きています。喜びます。悲しみます。怒ります。おびえます。血が通っているのです。

 私の生きる世界だって人類はすぐに一致団結しないし、謎は簡単に解明できないし、裏切り者だって現われるし、いい人だって不幸になる。それでも諦めない人がきっといます。

 宇宙規模の話ですが、「三体」は人間の存在をおろそかにしていません。おそろかにしないことで、より宇宙の圧倒的な広さを思い知らされます。

 登場人物はそれぞれまったく別の行動を取っているのに全員が人間らしい行動なんです。全員人間という範囲を超えられないんです。人間は人間であることからは逃れられない。でも、人間という範囲で、圧倒的な力の差のある存在と戦っていく。

 私「宇宙から見ると、人間の命なんてないのと同じ。けれども、人間の命はとてもいとしくて重いんだ…。そして、物理学が存在しないことは怖い」

 逆いかりや長介さんから始まった私がここまで変化しました。前半のゆっくりな展開から一変、後半の疾走感はたまらないです。作品を視聴するとき、早急な結果だけを求めると本当に結果だけを知って終わってしまいます。「三体」は、自分の人生に刻むように視聴する作品だと思います。私は確かに汪ミャオたちとともに生きた時間がありました。

 私「頼むから見て!」

 このドラマは原作からすると導入部分で終わっているそうです。これだけ壮大で面白かったのに?! ぜひ、ドラマの続編をお願いします!

「SF超大作『三体』」を今すぐ視聴するならコチラ!

おわりに・・・

 今回取り上げることはありませんでしたが、酒寄さんが気になった作品を酒寄さんならではの視点でご紹介します。

「SF超大作『三体』メイキング映像」
 これを見てしまったら私は絶対に影響を受けてしまうと思い、本編を見終わるまでずっと我慢していました。メイキング公開! なんて太っ腹! 「三体」はSFなのに非常に現実味がある作品なので、「この場面って一体どうやって撮影したの?」と思うシーンが何度もありました。メイキングを見て、本当にものすごく大変だったことが分かりました。ドラマ化がいかに難しい作品だったか、そしてその不可能を実現したことに感動します。このメイキングもすばらしい一つのドラマです。人間ってすごい。

「SF超大作『三体』メイキング映像」を今すぐ視聴するならコチラ!

『ギルト~地獄のカップル・デスロード~』
 デンマーク発のコメディなのですが、デンマークってこんなにコメディに強いのかと思うほど面白いです。コロナで自粛中のカップルが毎回車の中で大げんかをするという決まった設定の中で、こうもあらゆるけんかを繰り広げられるのかと驚きます。彼氏も面白いのですが、特に彼女のけんかスタイルが毎回面白過ぎて一生2人のけんかを見ていられそうです。しかし、けんかをするのは結局2人がラブラブだからということで、大体6分くらいで一げんか(1話)が終わるのでとても見やすいです。

『ギルト~地獄のカップル・デスロード~』を今すぐ視聴するならコチラ!

「食の達人」
 私の相方の田辺さんとはるちゃんはチョコレートが大好きで、今年も「サロン・デュ・ショコラ」というチョコレートの祭典に行きました。その2人から「Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー)」という言葉を聞き、カカオ豆(Bean)から板チョコレート(Bar)ができるまでの全工程を自社で一貫管理して製造する製造スタイルに興味を持ちました。食の達人の「チョコレートの回」を見ると、知らなかったチョコレートについてたくさんのことを学べます。おいしいチョコレートはカカオからすでにもう始まっているんだなと実感しました。

「食の達人」を今すぐ視聴するならコチラ!

合わせて読みたい! お笑い芸人の中山功太さんによる「#エンタメ視聴体験記 ~中山功太 meets WOWOW~」のコラムはこちら

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トップ画像(クレジット):「SF超大作『三体』」:ⓒ TENCENT TECHNOLOGY BEIJING CO., LTD.