佐藤健演じる「剣心」に深く踏み込んだ『るろうに剣心 最終章』2部作を観た後、再び第1作に戻ってほしい
文=SYO @SyoCinema
WOWOW公式note「映画のはなし シネピック」をご覧の皆さま、SYOと申します。2019年からコツコツと書かせていただいた俳優&作品をただただ愛でるコラムが「#やさしい映画論」として連載へと進化しました! ライターとしての礎を作って下さったWOWOWのシネピックに感謝しつつ、スタンスはこれまでと変わらず、内容はここからさらにパワーアップしてお届けできればと思います。皆さま、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
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コロナ禍という未曽有の事態にあって、2021年は日本映画の躍進が目立った。1月公開の作品から振り返ってみても、メジャー、インディペンデント問わず、優れた力作が毎月のように上映されていた印象だ。
その中で、最大と言ってもいいトピックはやはり、約10年に及ぶ実写「るろうに剣心」シリーズが完結したこと。コロナ禍における公開延期を乗り越えて人々に届けられた第4作『るろうに剣心 最終章 The Final』(’21)、第5作にしてエピソード・ゼロに当たる『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(’21)は、紛れもない傑作であった。
WOWOWでは、『~The Final』が1月、『~The Beginning』が2月に初放送。それを記念し、改めて本シリーズの魅力を紐解いていきたい。
まずは簡単に「るろうに剣心」シリーズの復習を行なおう。幕末、“伝説の人斬り”と呼ばれ恐れられていた緋村抜刀斎=剣心(佐藤健)。もう二度と人を斬らないという不殺の誓いを立て、真剣から“逆刃刀”へと持ち替えた彼は、明治の世で諸国を旅し、困った人々を助ける流浪人として静かな生活を送っていた。そんな折、父の残した剣道場を守ろうとする神谷薫(武井咲)と出会ったことから、剣心はさまざまな事件に巻き込まれていく。
第1作『るろうに剣心』(’12)では鵜堂刃衛(吉川晃司)、外印(綾野剛)、第2・3作『るろうに剣心 京都大火編』(’14)、『るろうに剣心 伝説の最期編』(’14)では志々雄真実(藤原竜也)、瀬田宗次郎(神木隆之介)、四乃森蒼紫(伊勢谷友介)といった強敵たちと戦いを繰り広げ、「この目に映る人々」を守らんとしてきた剣心。第2・3作で描かれた、“国盗り”を掲げるテロリスト・志々雄との対決は、彼にとって最大規模の死闘だった。第3作で描かれる、戦場での剣心と瀬田のハイスピード・バトル、演じる佐藤と藤原の極限状態の“鬼気”に打ちのめされる剣心と志々雄の最終決戦など、いまだにあの熱量を覚えている方も多いことだろう。
対して、第4作『~The Final』で描かれるのは、剣心の心に陰を落とす因縁の相手との“私闘”。そして、剣心の頬に残り続ける十字傷の謎が解き明かされる“始まりの物語”が、第5作『~The Beginning』。つまり、これまでになく剣心という人物に深く踏み込んだ2作品なのだ。原作ファンにおいては「人誅編」「追憶編」の名で親しまれているこれらのエピソードは、長らく実写化を望まれていた。大げさでなく、第1作の制作発表時から「このエピソードを!」という声は多くあり、第1作の回想シーンとして登場した際の完成度の高さも相まって、念願の実写化といえる。第3作『~伝説の最期編』から足掛け7年という月日、観られる時を待ち続けていたのだ。
第4作『~The Final』は、抜刀斎時代の剣心の妻・巴(有村架純)を巡る数奇な運命の物語。剣心が姉の巴を斬殺する姿を目撃してしまった弟の縁は(この事件の真相は第5作で判明する)、大陸に渡り闇社会でのし上がっていく。そして、恐るべき犯罪組織の長(新田真剣佑)として再び日本に戻って来るのだった。剣心に復讐を果たし、人誅を下すために。
縁は、白髪に筋骨隆々の肩がむき出しになった衣装、「倭刀術」という長刀と格闘術を融合させた特殊な戦闘スタイルを持ち、復讐という狂気に染まった最凶の敵。和月伸宏の原作漫画からそのまま出てきたかと見まごうほどの完璧な姿に仕上げてきた新田の成り切りぶりと、剣心役の佐藤と共に繰り広げる怒涛のアクションにはただただ圧倒させられる。再現度の高さをゴールとせず、“ベース”にしてその先を見せるのが「るろうに剣心」シリーズが「漫画の実写映画」において別格の輝きを放つ主な理由なのだが、縁はその象徴と言えるだろう。
その縁との一騎打ちに至るまでに待ち受ける、“暗器”使い・乙和瓢湖(栁俊太郎)とのバトル、鯨波兵庫(阿部進之介)に対抗するシーンなど、シリーズを牽引する佐藤の超人的な身体のキレがいかんなく発揮される見せ場が連発。ほかにも、シリーズを世界レベルに押し上げた立役者の一人、アクション監督の谷垣健治によるアイデアが満載。作品内で、アクションの熱量と難易度がどんどん上がっていく構造になっており、剣心vs縁がバトルを開始するタイミングでは、観ているこちらのテンションも最高潮に達しているはずだ。
また、先に述べたように本作は「復讐」がテーマになっており、シリーズの根底に流れる「贖罪」にかつてなく踏み込んだドラマの深さも、見逃せない。『るろうに剣心』では人斬り抜刀斎を語る幕末の亡霊・刃衛、『~京都大火編』『~伝説の最期編』では討幕派の志士に雇われた人斬りの後輩・志々雄と、自身と何らかの接点がある敵と対峙してきた剣心。今回の縁においては、仮に倒しても剣心の罪は消えず、根本的解決にはならない。剣心が人斬り時代にあやめた者の遺族である縁の心の救済は、何をもってなされるのか? 剣心は苦悩し、精神的に追い詰められていく。最愛の姉を亡くした縁は剣心本人を叩くのではなく、周囲の人間に危害を加える復讐のアプローチを取る、という意味でも、これまでの敵とはまるで異なっている。
そういった意味では、敵でありながらも観客の共感を誘うキャラクターである縁。刃を交えるだけではない、加害者と被害者のぶつかり合いは、戦いの決着を超えた“魂の決着”という意味でも、観る者を強く引き込んでいく。そして、剣心と縁のドラマは、全ての起因を描くシリーズ史上最もエモーショナルといってもいい“情念の物語”である第5作『~The Beginning』をもって、補完される(こちらは剣心=抜刀斎の使う刀が真剣であり、血なまぐさも含めた本格感がさらにアップ。両作の魅せ方や作品としての色合いの対比も、興味深い)。
何が、剣心と縁を悲運へと導いたのか? 第4作『~The Final』を経た上で第5作『~The Beginning』を観ると、剣心と縁が抱えている喪失感の重さ、2人の間に立つ巴の悲しみ、果ては剣心を暗殺者の道に引き込んだ桂小五郎(高橋一生)、さらにはそんな世にしてしまった人々——すべてが連鎖していく。その結果、ふたりが戦うこと自体の切なさが、ぐっと増幅するという仕掛けなのだ。
そして……。相互補完関係にある『最終章』2部作を観た後は、再び第1作『るろうに剣心』に戻ってご覧いただきたい。2巡目は、剣心の過去をすべて把握した分、胸にこみ上げる感慨が別次元の領域に達しているはずだ。同時に、未来を象徴するキャラクターである巻町操(土屋太鳳)や愛の体現者である薫を主体に追い掛けていけば、また色合いも変化していく。観るほどに心に訴えかけ、味わいが増す——。「るろうに剣心」シリーズは、この先も朽ちずあせず、終わらない。
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