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「何に対しても真剣でありたい」俳優25周年を迎えた吉田羊が挑戦した“特別な”歌のステージ

俳優によるコンサートが見たい──WOWOW 制作部の石川彰子プロデューサーが妄想した“特別な体験”は、俳優25周年を迎えた吉田羊によって実現した。思い思いにオシャレをしたファンがビルボードライブ東京に集い、吉田羊と過ごす贅沢な時間。吉田羊NIGHT SPECTACLES THE PARALLEL~ウタウヒツジ~25TH ANNIVERSARY SPECIAL<12月4日(日)後5:30放送・配信>の発案から実現に至るまでを、吉田羊&石川Pが振り返る。

25周年を祝うコンサートであれば、吉田羊として歌えるかもしれない

──9月にビルボード東京で行なわれた「吉田羊NIGHT SPECTACLES THE PARALLEL~ウタウヒツジ~25TH ANNIVERSARY SPECIAL」は、石川Pが発案されたとのこと。普段は演劇の中継や、オリジナル番組の制作がメインの石川Pですが、俳優である吉田さんのコンサートを開催したいと思った理由とは?

 吉田「私もそれを聞きたいです!(笑)なぜ私に白羽の矢が立ったのでしょうか?」

 石川P「私はいつもは舞台を収録してWOWOWで放送するという中継業務と、ちょっとしたオリジナル番組の企画・制作がメインの業務なのですが、(石川P過去記事はこちら)あるときWOWOW内でオリジナルの企画を募集していて、内容は本当になんでもよかったんです。それで、『どうせやるなら見たことがないものを見たい』と思いました。私は基本的にオタクなので(笑)、『こんなものが見たいな』とかってよく妄想するんです。でも、世の中にまだそれをやっている人がいない。『だったら自分で企画してみようかな』と(笑)。いずれにしても、“ありそうでないもの”がいいなと思いました」

(左)石川彰子 (右)吉田羊

──そこで浮かんだのが、俳優によるコンサートだった。

 石川P「映画『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』で描かれる、ミシェル・ファイファーのコンサートだったら行きたいなと思っていて、企画書の最初にも書いたんです。ほかにも『ニコール・キッドマンがニューヨークで一夜限りのコンサートをやっていたら、絶対に見てみたいな』とか妄想していて(笑)。そのイメージで企画書を出しました」

 ──吉田さんに歌ってほしいと思ったのはなぜでしょうか? 

石川P「WOWOWオリジナルコントドラマ『松尾スズキと30分の女優』の『吉田羊の乱』を撮影していたときに、羊さんが『コントの中で歌があったら、歌ってもいいかも』みたいなことをおっしゃっていたんです。それで『そうなんだ。羊さんは“歌ってもいい“っていう気持ちがある方なんだな』と心に留めていました」

「松尾スズキと30分の女優 #1吉田羊の乱」WOWOWオンデマンドで配信中

吉田「私が!? 覚えてない!(笑) でもきっと、コントの中で役として歌うんだったらできると思ったんでしょうね」 

石川P「そうかもしれないですね。それで『羊さんが歌うのを見てみたいな』と思って。あとはやっぱり、羊さんのファンの方たちが喜ぶようなものを私も見てみたかった。それならば、ありそうでない“俳優さんのディナーショー”がいいんじゃないかなって思ったんです。先ほど言ったように、映画のワンシーンの中にいるような特別な体験をしていただきたいと思い、企画書を作りました。それに、羊さんがちょうど25周年だったので……」 

吉田「『ダメもとで聞いてみるか』と?(笑)」

 石川P「そうですね(笑)」 

──企画のことを聞いた吉田さんは、最初にどう思いましたか?

 吉田「去年の夏にお話をいただいて、最初は『いや、ないない!』って一蹴したんです(笑)。さっきも言ったように、役として歌うことはできるけれど、吉田羊として歌うなんて……プロの方たちに失礼だと思っていたし、しかも『それでお金をいただくだと!?』って(笑)。でも、よくよく考えたら『そういえば私って、来年25周年だった』と。
 それまで、25周年を何かの形でお祝いするとかってあまり考えていなかったんですが、もしこれを25周年のメインイベントにできるのであれば、2022年をお祭りみたいに楽しくできるかもしれないって、自分が自分にワクワクできたんですね。『それだったら歌えるかも!』と思ってお返事しました」

──2020年の緊急事態宣言下に制作されたオリジナル楽曲「colorful」を9月に配信リリースされたのも、25周年を楽しもうという気持ちからでしょうか?

 吉田「そうなんです。2020年に作ってはいたけれど、発表に関してはまったく考えていなくて(笑)。『俳優が曲を作りました』と急に発表したところで、誰も興味を持ってくださらないだろうと思っていたんですが……これを機会にリリースできるかなと。しかも、出演させていただいたWOWOWのリモートドラマ『2020年 五月の恋』に登場するモトオ(演:大泉洋)とユキコ(演:吉田羊)からインスピレーションを受けて作詞したものだったので、すべてが良い感じにつながって、素敵な機会をいただけたのかなと思います」

「吉田羊×大泉洋『2020年 五月の恋』 [特別版]」 WOWOWオンデマンドで配信中

14台のカメラで会場をくまなく撮影する、WOWOWのライブ中継チーム

 ──初めてのコンサートとなった今回、どのようなところに特にこだわりましたか?

 吉田「何よりもまずは選曲ですね。年明けから何度も検討を重ねて、こだわりにこだわりました。私はなるべく地声に近い、歌いやすい曲をメインに選びがちなんです。でも、石川さんには『エンターテインメントとして成立させたい』という想いがあったので、『お客さまも一緒にのれるような曲がもう少しあった方がいいんじゃない?』といったようなアドバイスをしてくださって。1曲目の『Don't Rain On My Parade』(映画『ファニーガール』より)は石川さんのリクエストで……」

Photo:Maiko Miyagawa

石川P「最初にこういう曲があれば、みんなで盛り上がれるし、ワクワク感もあるよねって」 

吉田「そうそう。『なるほど』と思って聴いてみたら……ものすごく難しくて、『石川さん、よくこれを持ってきたな』と(笑)。でも、せっかくこういった機会を与えていただいたからには、高いハードルを自分に課してやり遂げたいという想いがあったので、『じゃあこれにします!』とお返事しました。2月からずっと曲を聴いて、歌詞を覚えようとするんだけれど、全然入ってこず(笑)。それでも毎日ランニングをしながら聴いて覚えて……結構大変でしたが、楽しかったですね。
 直前のリハーサルで初めて人前で『Don't Rain On My Parade』を歌ったんですが、毎日聴いていただけあって自然と歌詞が出てきて『あ、やっぱり努力は裏切らないんだな』ってあらためて思いましたし、挑戦への手応えを感じることができた1曲でした」

──石川Pは初めての企画に苦労した部分などはありましたか?

 石川P「特にないです。ファンの方たちがめちゃくちゃ喜ぶような、特別な体験をというコンセプトは最初からまったくブレなかったので……強いて言うなら、私は舞台もコンサートも作ったことがないので、全然分からなかったというのはあります(笑)」 

吉田「石川さんって分かったふりをしないんです。分からないものは『分からない』と言ってくださるからこそ、分かる人材が集まってくれて」 

石川P「ひとりずつ探してきて(笑)」 

吉田「そうそう(笑)。『あ、ここにもプロがいた。あそこにもプロがいる』って、各セッションの職人さんたちを集めて、みんなで作り上げたコンサートだったなと思います。『ライブ中継といえばWOWOWのこのチームだよね』という石川さんをはじめとするスタッフの皆さんが集まってくださったので、視聴者の方たちが『ここを見たい』と思うであろうところを、漏らさず拾ってくださっているんです」 

──場の空気感が伝わってくるようなライブ中継でした。

 吉田「バンドメンバーが演奏している表情や手元まで、全部くまなく拾ってくださっていて、本当に贅沢ぜいたくなライブ映像ですよね。お客さまとしては、どうしてもボーカルを見がちだとは思いますが、目がたくさんあったら、もっといろんなところが見たいじゃないですか(笑)。そういった想いも満足できるような映像にしていただけたと思います。最初にお話をいただいたときから、『WOWOWさんだったら全部お任せできるだろう』という安心感がありました」 

石川P「個人的にも『オリジナル企画だからこそできる、ディレクターや技術チームが思い通りに面白い場所や好きな場所にカメラを置きたい』という野望がありましたから。クレーンやレールを敷いたり、タワーカムも入れています。画角もシネマスコープで撮っています」

 吉田「14台のカメラを置いていたので、最初は『そんなに撮るとこある?』って思ったけれど、全部使っていましたよね(笑)。『カメラはココとココです』って言われると、『そっちを向いたほうがいいかな』って、やっぱり少し意識するんですけど、どこを向いてもカメラがあるので、歌うときの自由度が高くなりました」 

──「ご自身が思うとびっきりオシャレな格好でいらっしゃってください」というドレスコードも素敵でした。 

吉田「ドレスコードをきっちり決めてしまうと、『そういう服は持っていないから無理だな』と諦めたり、『自分は場にそぐわないんじゃないか』と気後れしがちですが、ご自身が思うとびきりのオシャレだったらなんでもありじゃないですか。
 “六本木の東京ミッドタウンの真ん中にある、ビルボードライブ東京”というだけで身構えちゃうかもしれませんが、そこに『平服よりもちょっとオシャレしてきてね!』と言いながら吉田羊が待っていたら(笑)、準備する時間すらも楽しんでいただけるんじゃないかと。そういった想いもあって、ドレスコードを設定させていただきました」

吉田羊もドレスから着物まで色鮮やかな衣装で登場 Photo:Maiko Miyagawa

──さらに、ゲストとして大泉洋さんが登場されました。

吉田「大泉さんをお呼びした理由はいくつかありますが……まず一つは、私と同年代かつ第一線で活躍されている、とても尊敬している方であること。そして、地方から出てきて、ご自身の劇団をお持ちであること。私も地方出身者で、小劇場時代に劇団を持っていたので勝手に親近感を抱いていて。そういう方が隣に立ってくださったら安心だろうなと思って、大泉さんの名前を挙げさせていただきました」

 石川P「大泉さんのお名前が挙がったときに『出ていただけたら最高だな』と思っていましたが、本当に出ていただけることになって……」

吉田「『いえーーーい!』ってなりましたよね(笑)。しかも4ステージ全部に出てくださって」

石川P「めちゃくちゃかっこよかった」

 吉田「ねー! シャラーっと登場する大泉さん、かっこよかったなあ~」

Photo:Maiko Miyagawa

石川P「『飾りじゃないのよ涙は』も、もちろんかっこよかったけど……」 

吉田「『JUST THE WAY YOU ARE』ね! 大人の雰囲気で、本当にかっこよかった! 初めて一緒に歌ったとは思えないぐらい、波長がすごく合って。歌声もケンカすることなくかみ合ったので、歌いながら『すごく気持ちいいな』と思っていました。
 『何作もご一緒しているからこそ、事前に打ち合わせをせずとも呼吸や間合いがピッタリ合うんだろうな』と感じる瞬間が何度もありましたね。初めてご一緒する方だったら、関係性を築くところからスタートしなければならないと思いますが、その必要がなかったこともありがたかったです」

Photo:Maiko Miyagawa

 関わってくださった方には、一人残らず「楽しかった」と思ってほしい

 ──今回のコンサートを終えて、あらためて感じたことは?

 吉田「小劇場でずっと育ってきたので、『お客様がいてくださる空間の方が、自分は安心するんだな』ということを再認識しました。もちろん緊張もありましたが、この空間にいる皆さまは『吉田羊に会いたい』と思って来てくださったんだ、という安心感がとても大きくて、あらためて『私は応援してくださる皆さまによって、ここに立たせていただいている』と実感しました」

Photo:Maiko Miyagawa

──石川Pはいかがでしょう? 

石川P「見に来てくださった方の感想をSNSで見ると、企画するときに『こういう想いをしてもらえたらうれしいな』と思っていたことが書かれていて。それがいちばんうれしかったです。しみじみと『よかったなあ』と思えたというか……作っている側としたら、緊張と興奮で『果たしてこれがスペシャルなものに見えているか』というのは、分からないんですよね」 

吉田「客観視できない(笑)」

 石川P「そう(笑)。六本木のあの空間に行くこと自体、皆さんにとって特別なことだったと思うし、吉田羊さんをあの距離で直接見ることができるのはきっとすごく楽しいんだろうなとは思っていたものの、当日は必死すぎて、皆さんにどう感じていただけたか分からなかったんです。でも、後から感想を読んで、本当に喜んでくださっているのが分かったので、すごくホッとしました」

Photo:Maiko Miyagawa

吉田「今回のコンサートをやるって決めたときに、『お客さまを含めて、関わってくださった方には一人残らず「楽しかった」と思ってほしい』と私も思っていたので……お客さまの反応もそうですし、スタッフのみなさんも『いや~、楽しかったね』って言ってくださったのは感無量でした」

 ──そういった空気感でスタッフが仕事できたのも、これまで築いてきた吉田さんとWOWOWとの関係性があったからとも言えるのではないでしょうか?

 吉田「そうですね、間違いなくあると思います。WOWOWさんはYES・NOのNOがない印象なんです。まずは面白がってやってみる勇気をもっておられる会社だなと感じています。だからこそ、ほかでは見られない景色が見られる。この先もどんな新しいことを提案されていくのか楽しみにしていますし、その中にもし私の役割があれば、ぜひまたご一緒できればと思っています」

 ──石川Pは、吉田さんにやってほしいことなどはありますか?

 吉田「私もそれ聞きたい! 私に限らず、何かやりたいことがあったら教えてください(笑)」

 石川P「う~ん……個人的には、ミュージカルに出てほしいなと思います」 

吉田「ミュージカルをやるんだったら、3年ぐらい練習しなきゃダメですね(笑)。例えばどんな作品?」 

石川P「今思ってるのは『レベッカ』。ダフニ・デュ・モーリエの『レベッカ』が原作で、ヒッチコックが映画化しているんですが、それのミュージカル版ですね。『エリザベート』や『マリー・アントワネット』の作詞・作曲をやっているミヒャエル・クンツェとシルヴェスター・リーヴァイが共同で作ったサスペンスフルなミュージカルなんですけど、めちゃくちゃ面白いんです。それを吉田さんが演じているのが見たいなと……本当に個人的な妄想なので、WOWOWとは全然関係ないんですけど(笑)」

吉田「ミュージカルねえ~。死ぬまでに一度はやってみたいとずっと思っていましたが、今回人前で歌うということをやらせていただいて……簡単には言えなくなっちゃいました(笑)。ものすごい準備をしないと無理だなって。でも、歌えるようになるために自分自身に挑戦していく作業はすごく楽しかったので、いつかご縁があったらやってみたいとは思っています」 

──吉田さんがお仕事をする際に大切にしていることとは?

 吉田「何に対しても真剣でありたいなと思っています。私は本当に取り柄もないし、不器用な人間なので、準備にも時間がかかるんです。だからこそ、せめて物事に向き合う真剣さはきちんと持っていたいなと思っています。
 ものづくりをする人って……当然ですが、自分の作品がいちばん愛おしくて大事ですよね。そんな彼らはきっと、自分と同じ温度で真剣に作品に向き合ってくれる人と一緒にものづくりをしていきたいんじゃないかと私は思っているんです。
 ですから、そういった私の真剣さを見て『吉田羊とまた一緒にやりたい』と思っていただけるとしたら、これ以上のうれしいことはないと思っています。もちろん望まれる結果を出したいとは思いますが、それ以前に、監督やスタッフさんたちと同じ温度で、真剣に作品と関わっていきたいなと思っています」 

取材・文:とみたまい Photo:Aya Kawachi
スタイリスト:井阪恵(dynamic) ヘアメイク:paku☆chan(Three PEACE)

▼「吉田羊 NIGHT SPECTACLES THE PARALLEL~ウタウヒツジ~25TH ANNIVERSARY SPECIAL」の詳細はこちら

▼祝 25 周年!WOWOW冬の吉田羊まつり 12月4 日(日)
2022 年でデビュー25 周年を迎えた吉田羊。WOWOW が企画する俳優によるコンサート「Night Spectacles」シリーズの第 1 弾として、9 月 22 日、23 日に東京・Billboard Live TOKYO で開催された「吉田羊NIGHT SPECTACLES THE PARALLEL~ウタウヒツジ~25TH ANNIVERSARY SPECIAL」とそのメイキング、舞台「ザ・ウェルキン」の初放送を中心に、映画、ステージ、ドラマ、コントなど、女優 吉田羊のマルチな才能を味わえるスペシャル編成をお届け。詳細はこちら

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