貧困に直面する芸人の僕が“貧困女子”のリアルを垣間見た【#エンタメ視聴体験記/中山功太】
文=中山功太
僕は2010年に上京してから現在に至るまで、途切れる事なく貧困状態である。人ひとりが抱えられる限界ほどの借金もある。
一番苦しかったのは2014年頃だったろうか。この豊かな国、日本において、ガス・水道・電気、全てが止まり、食糧がゼロになり空腹に耐えきれず、腹をどついて寝た夜がある。なぜ腹をどついたかと言うと、僕は、満腹とは内側からの胃の刺激だと考えているからだ。空腹を外側から満たすには、腹をどついて胃を刺激する以外の手段はないのである。ダイエット中の方はぜひ自己責任でお試しあれ。
つまりと言うか、何と言うか、僕は貧困なんて他人事だと思っていない。いま現在も直面している、大いなる問題であり、単なる日常だ。だけど、誰かに同情してほしいなどとは微塵も感じていない。それは当たり前の話だ。
僕の貧困の原因はただ一つ、「芸人を続けているから」だ。
勝手に芸人になって、勝手に売れずに、勝手に辞めていない、おのれの責任だ。
仕事がないならバイトさせてもらえばいいのに、空いてる時間はYouTubeの生配信でお笑いをやりたいというエゴを貫いている。成るべくしてなった貧困男子である。
ただ僕は自分を不幸だとは感じていない。人に恵まれ、毎日笑って、楽しく暮らせている。
だけど、この度視聴した「連続ドラマW-30 東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-」に登場する貧困女子たちは違う。明らかに不幸だ。迫りくる死が香る人たちもいる。しかも単なるドラマではない。原作者のノンフィクション作家・中村淳彦氏の取材にもとづいた、圧倒的にリアルな日本の一つの漂流地点である。
このようなハードな作品について語る時に「面白かった」と表現するのは違うのかも知れない。でも安心していただきたい。このドラマはイロモノ感などはなく、性についても扱っているが品がある。ドラマとして本当に面白かった。
主人公の雁矢摩子(趣里)は離婚後、養育費を受け取っていないシングルマザーの編集者。ある日「女性の貧困」についての連載を担当する事になる。編集長に紹介された﨑田祐二(三浦貴大)は、とある理由から仕事を続けている、暗い過去を持つフリーの風俗ライター。全くウマが合わない2人が、貧困女性たちに取材を重ねる内に、雁矢摩子は自らも貧困女子の瀬戸際に立たされている事に気付く。
雁矢摩子の母親・宮下菜穂子(高橋ひとみ)は摩子が成人するまで夫の暴力に耐え離婚し、孫の世話に追われ人生の意味を見失いかけているし、﨑田祐二の親友で、風俗店を経営する望月遼太郎(淵上泰史)は登場から怪しい匂いしかしない。
登場人物のほとんどが訳ありなのだが、それをかき消すほどに響くのが、オムニバス形式で登場する貧困女子たちが取材の場でこぼす「叫び」だ。
原作者・中村淳彦氏の取材をもとに、と言うよりも、恐らくそのままの言葉ではないかと感じた。貧困女子たちへのインタビューシーンは、本作の大きな見どころの一つだ。俳優が演じているとは思えないほどにリアルだ。嘘のない生臭い言葉たちは非常に重く、価値がある。このインタビューシーンだけで作品になり得るレベルだ。
だが本作は、そんな女性たちへの取材を経て変化していくヒロインの心情や、コロナ禍以降の日本が抱え、抱えきれずこぼれ落ちている問題を見事に描いている。その上で「ドラマ」というエンターテインメントに仕上げているのが本当に凄まじい。
どこまでも重くなりかねないテーマや展開において、雁矢摩子と﨑田祐二の絶妙な距離感と軽妙なやりとりに救われる。なんだか2人の関係性が、漫画「美味しんぼ」の栗田さんと山岡さんを見ているようで、ほっこりできた。
インタビューシーンが鮭ハラスだとしたら、ドラマ部分はお米で、編集と言う名の海苔を巻いて、さあ召し上がれ、である。
「はぁ?」と思われた方も多いかもしれないが、これは、おにぎりは鮭ハラスこそ至高のメニューだと考えている僕の最大限の賛辞だとご理解いただきたい。
さらに本作の主題歌は、この作品のために書き下ろされたTHE YELLOW MONKEYの新曲「ホテルニュートリノ」である。ドラマの終盤に流れるこの曲がまた素晴らしい。完璧に作品に寄り添っている。
そして何より本作は、WOWOWオリジナル作品である。つまり、WOWOWでしか観られない作品だ。
僕はWOWOWに加入しているおかげでこの作品に出逢えたし、最終話まで観る事ができる。
なお本作は、WOWOWオリジナル作品であり、WOWOWでしか観られない作品だ。
このドラマは本当に面白い、問答無用の傑作だ。続きが楽しみで仕方がない。
ちなみに本作は、WOWOWオリジナル作品であり、WOWOWでしか観られない作品だ。
みなまで言わないが、東京貧困中年は、何の後悔もしていない。
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