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生きづらさを抱えるすべての人に見てほしい―。「連続ドラマW ゴールドサンセット」の制作陣が本作を通じて伝えたいこととは

WOWOWにて、2月23日(日)から放送・配信される、後悔・追憶といった人生の機微を描いたヒューマンミステリー、「連続ドラマW ゴールドサンセット」。

演劇という世界が、日常にもたらしてくれる意味について、本作を見て人生で初めて想いを巡らせました。 note編集部の岡井です。
他人を知ることにも自分を知ることにもつながる「表現」について、今もなお考えています。

今回のコラムでは、本作の脚本・監督を務めた大森寿美男監督と、WOWOWの企画・プロデュース担当・西憲彦の対談で、 本作を通して伝えたいメッセージ、そしてお2人をつなぐ「演劇」というものの価値について語っていただきます。

取材・文=柳田留美 撮影=中川容邦

【プロフィール】
大森寿美男
自ら旗揚げした劇団で作・演出を手掛け、渡辺えり子(現・渡辺えり)主宰の劇団で演者を務めるなどした後、1997年に脚本家デビュー。コメディから時代劇まで幅広いジャンルをこなし、監督としても活躍。主な脚本執筆作は、大河ドラマ「風林火山」、NHK大河ファンタジー「精霊の守り人」、NHK連続テレビ小説「なつぞら」など。

西憲彦
演劇ざんまいの学生時代を過ごし、日本テレビに入社。ドラマのプロデューサーとして多数のヒット作を手掛ける。2022年、WOWOWに入社。主なプロデュース作品は、「たったひとつの恋」「銭形警部」「同期のサクラ」「ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―」など。


「連続ドラマW ゴールドサンセット」2月23日(日・祝)後10:00スタート

「演劇」は特殊なものじゃない―。人が演じる先にある価値を伝えるために

──大森さんと西さんはかねてご縁があると伺いました。

大森 脚本家として活動するようになって、初めて書いたTVドラマの脚本が「夜逃げ屋本舗 」(’99)でした。この時のプロデューサーが西さんだったんです。

西 「夜逃げ屋本舗」は、僕が初めてプロデューサーとして手掛けた作品でもあります。企画を担当していたのは、光和インターナショナルという制作会社の代表で、数々のヒット作をプロデュースされている鈴木光さん。今回の「ゴールドサンセット」は、僕がWOWOWに転職してきて最初に手掛けた作品なんですが、鈴木さん、大森さんとまたタッグを組めたことに運命を感じています。

──「ゴールドサンセット」の企画はどのようにスタートしたのでしょうか?

大森 鈴木さんから、「映像化したい小説がある」とお話をいただいたのが始まりです。早速読んでみたところ、作者である白尾悠さんの筆致がすばらしくて。劇団を立ち上げたことがあるほどもともと演劇が好きですから、自分の人生に密接するテーマを扱った作品というのは運命的だと思い、強く惹かれました。また、脚本だけでなく監督も任せたいと言っていただけたのがうれしくて、「ぜひやりたい!」と。

西 大森さんと同じタイミングで鈴木さんからお声掛けいただきました。僕も学生時代は演劇にのめり込んでいたので、ぜひ手掛けてみたいと思いましたね。しかも、脚本・監督を大森さんにオファーしていると聞いて、「やるしかない!」という気持ちになりました。

大森 とはいえ、やや特殊な題材ですから、正直なところ企画の実現は難しいかもしれないと思っていたんです。ですが、西さんがWOWOWで企画を通してくれて。

西 WOWOWの視聴者の皆さんはサスペンスやミステリーを好む傾向があるので、「演劇」という特殊なテーマの企画が通ってホッとしました。「ゴールドサンセット」は、「演劇」だけでなく「ハラスメント」もテーマにした作品。現代社会でさまざまな生きづらさを抱えている人々に寄り添い、光を与える力を持っているので、今こそ視聴者の皆さんにお届けすべきだと思いました。

企画・プロデュースの西憲彦

――映像化に当たり、こだわったポイントを教えてください。

西 「演劇」を前面に押し出し過ぎない方がいいのではと考えていました。しかし、大森さんには作品の世界に深く埋没していただき、僕がプロデューサーとして客観的なジャッジをするという役割分担で進める中、やはり「演劇」はなぜ人々の心を打つのか、そこをきちんと描かないと平凡なドラマになってしまうという結論に達し、「演劇」に徹底的に向き合う作品にしようとかじを切りました。

大森 僕も西さんとまったく同じ気持ちで、却下されるかもしれないと思いながら「演劇」をしっかり見せるつもりで脚本を書いていました。西さんがそれを面白がってくれたのはもちろん、WOWOWもそれを受け入れてくれたので、「懐が深い会社だな」と思いましたね。WOWOWには作り手の色が感じられる質の高いドラマが多いと常々感じていたんですが、その理由が分かった気がしました。

西 ドラマの中盤に、「うそが本当になる瞬間があるんだ」という印象的なせりふが登場します。なぜ人は生きる上でフィクションを求めるのか、なぜ演じるという行為に惹かれるのか、その答えにつながるこのせりふの意味を、見ている人にしっかり伝えられる作品にすることが大前提。内野聖陽さん演じる主人公・阿久津がどんな過去を抱えているのか、その部分をミステリー仕立てで見せることも意識しましたが、そこにこだわり過ぎて本質を見失わないよう気を付けました。

大森 WOWOWならではのチャレンジでしたよね。

西 そうですね。ドラマの作り手も放送各局だけの時代から、近年ではさまざまな配信プラットフォームも参入し、作家性の強い作品が増えています。だからこそ、WOWOWとして多様なジャンルの作品を届けていかなければならないという使命も感じていました。気概のある作り手が集まってくるようなドラマを作らなければと、腹をくくった部分もありましたね。

大森 結果的に、「WOWOWってこういうドラマもあるんだ!」と思ってもらえる作品になりましたね。

監督・脚本の大森寿美男

連続ドラマならではの構成に工夫あり。劇中劇「リア王」も1週間の舞台稽古を実施!

――「演劇」をしっかりと見せながら、連続ドラマとして成立させるために工夫した部分があれば教えてください。

西 原作はオムニバス形式ですが、ドラマはオムニバスにならないように、毎田暖乃さん演じる中学生の琴音を語り手の視点として毎話に登場させています。原作の世界観を大切にしつつも、琴音が「演劇」に触れることで成長していく姿、そして、彼女と主人公である阿久津の交流を全話の軸に据えることにしました。

阿久津勇役の内野聖陽(左)と上村琴音役の毎田暖乃(右)

大森 「演劇」は意外にも身近にあり、人生観を変えたり視野を広げたりするきっかけを与えてくれるものだと視聴者に伝えるためには、この軸が必要だと考えました。ただ、原作では短編ごとにストーリーが独立していて、それぞれ色合いも異なります。多様性と連続ドラマとしての統一性をどのようなバランスで織り交ぜていくのか、そこが難しかった半面、作り手としては楽しい挑戦でした。

西 劇中劇としての「リア王」の見せ方にもこだわりました。劇中劇とはいえ、相応のクオリティーで見せないと視聴者の方々に楽しんでもらえるものにならないと思ったんです。そこで、阿久津の過去の回想シーンと「リア王」のストーリーをリンクさせる構成を大森さんが考えてくれました。

大森 阿久津が言う「リア王」のせりふは、阿久津の心情を語るせりふでもあります。阿久津に感情移入することで、「リア王」のせりふもより深く受け止めてもらえるような構成を心掛けました。「リア王」のように劇中劇として登場しないまでも、「シラノ・ド・ベルジュラック」や「サロメ」「三人姉妹」など、古典的な戯曲の世界観が、登場人物たちの日常に絶妙にリンクしている作品なので、その辺りもうまく表現できたら…と思いました。

劇中劇「リア王」の舞台シーン

――「リア王」の劇中劇へのこだわりを、さらに詳しくお聞かせください!

大森 阿久津の心情をドラマに落とし込むには、劇中劇とはいえ「リア王」を演じる阿久津をたっぷり見せる必要がありました。

西 「リア王」の舞台の台本を別に作って、役者さんには1週間ほどかけて「リア王」だけの稽古をしてもらいました。舞台「リア王」としてお客さまに楽しんでいただけるレベルを目指したので、役者さんは大変だったと思います。

大森 「リア王」のストーリーをある程度分かりやすく示すためにも、原作小説には書かれていない「リア王」のせりふをかなり足しています。また、ドラマの中の劇団員のキャラクターたちは、たくさんの稽古を積んでから本番に臨みます。その時間の積み上げや劇団らしい空気感も丁寧に表現したいと思うと、どうしても本格的な舞台の稽古が必要でした。

西 「リア王」の稽古が始まった直後から、役者さんたちのボルテージもかなり上がっていましたよね?

大森 そうですね。最初に顔合わせを兼ねて演じてもらったのは、阿久津演じるリア王と三橋芳子(和久井映見)扮するコーディリアの再会シーンでしたが、それを見ていた劇団員役の皆さんがもらい泣きしてしまって。劇中の劇団員、ひいては劇団員を演じる役者陣の想いが一つになったことが伝わってきて、とても感動したのを覚えています。

西 一致団結で臨んだ劇中劇ですが、ドラマ全体のバランスを考えるとすべて本編に盛り込むことができず、かなりカットせざるを得なかったのは残念でしたね。一部、予告編にだけ盛り込んだシーンもありますので、ぜひチェックしていただきたいです。

演技に説得力があり、演じることへの愛が深いことが出演俳優の条件

――主人公・阿久津役の内野聖陽さんは、どのようにキャスティングされたのでしょうか? また、内野さんの演技を見てどうお感じになりましたか?

大森 内野さんとは、映画『黒い家』(’99)、大河ドラマ「風林火山」、特集ドラマ「どこにもない国」など何度もご一緒してきました。役を演じるというより、その役に成り切って生きようとする役者さんという印象で、阿久津役には内野さんしかいないと初めから考えていました。役者の道を一度は挫折しながらも、年老いてから命を懸けて舞台に上がろうとする阿久津という男を演じるには、演劇と向き合うことの難しさややりがいを十分に理解し、真剣に向き合ってくれる方が必要だったんです。

西 演じる年齢の幅もあり、引き受けるには相当の覚悟が必要な難役ですが、オファー後に内野さん自ら「詳しい話を聞きたい」とわれわれのもとに足を運んでくださったんです。大森さんが脚本・監督を務めるという絶対的な信頼に加え、「演劇」というテーマやリア王という役柄への関心も強かったようです。

大森 リア王という老人役を、50代半ばの内野さんに演じてもらうのには無理があるとも思ったんですが、リア王というエネルギーあふれる激しい役柄は、本当に老人になってからでは演じられないんですよね。「リア王」をモチーフにした黒澤明監督の『乱』(’85)で仲代達矢さんが主人公を務めた時の年齢も、ちょうど今の内野さんくらいでしたから。

劇団で「リア王」を演じる阿久津(内野聖陽)

西 話を聞きにきてくださった時は、「まだやると決めたわけではないんで…」とおっしゃっていましたが(笑)、最終的に引き受けていただけて本当に良かったです。

大森 当初は、阿久津の心情でリア王を演じてほしいと内野さんに無理なお願いをしましたよね。

西 でも、リア王を本気で演じようと思ったら、阿久津の心情を拾っている余裕なんてあるわけない…。

大森 そうなんです。最終的には、とにかく“内野聖陽のリア王”を作ってもらうことに集中していただきました。内野さんがリア王も阿久津も真剣に演じれば、当然ながら阿久津がリア王を演じているように見えるはずなので。あのリア王の迫力を表現できたのは、内野さんが真剣にリア王という役に向き合ってくれたからこそだと痛感しています。

劇団で「リア王」を演じる阿久津(内野聖陽)

――語り手である琴音を演じる毎田暖乃さんはいかがでしたか?

西 「妻、小学生になる。」の演技を見て「何だ! この天才子役は!」と思いましたが、天性の才能で器用にこなすタイプの役者さんじゃないんですよ。地道に、真摯しんし に役にアプローチするタイプで、その誠実さと努力する姿が琴音というキャラクターと重なっていたところがすごく良かったと思います。

大森 撮影当時、彼女はまだ小学生だったんです。演技力は確かですが経験が浅い部分もあるので、理想とする表現ができない自分にジレンマを感じることもあったと思います。そんな彼女が殻を破るのを内野さんが自然にサポートする、その関係性はまるで阿久津と琴音のようでしたね。

琴音役の毎田暖乃(左)と琴音の母・上村和美役の安藤玉恵(右)

――ほかのキャストの皆さんに対する想いや、印象に残っているシーンを教えてください。

大森 太田紀江役の風吹ジュンさんをはじめ、脚本には描かれていないそれぞれの時間の積み重ねを自然に表現できる方々に集まっていただきました。自身の充実した生きざまをそのまま役に投影できる方ばかりで、ベストなキャスティングになったと思います。

西 演技力で見る者を納得させてくれる役者さんばかりが、よくぞここまで集まってくれましたよね。ストーリー抜きでも勝負できる圧倒的な芝居を見せてくれているので、ぜひご注目いただきたいです。

大森 シニア劇団の一員として役作りをしていく過程も見せるドラマなので、テクニックに頼らない皆さんの素直な演技もすてきでしたね。

西 中島裕翔さん演じる竹之内駿介は劇団員ではありませんが、幼い頃から付き合いがある老人に対してある役割を演じています。演者ならずとも、人には何らかの役回りを担う局面があるという人間の普遍的な経験をうまく表現してくれていました。老人役の津嘉山正種さんや、竹之内とも交流がある劇団員・瀬能大樹役の今井隆文さんの存在感もすばらしかったですね。夕日をバックに太田千鹿子役の坂井真紀さんが見せてくれた表情も秀逸でした。

竹之内駿介役の中島裕翔(左)と老人役の津嘉山正種(右)

大森 千鹿子に「三人姉妹」のせりふがいかに響いたのか、それがあのシーンで視聴者の皆さんにも伝わると思います。この作品のテーマの一つである「ハラスメント」が、古典的な戯曲の中にも存在することを示すシーンでもありましたね。「ゴールドサンセット」は時代を超えて共通する人間の課題を提起する作品なんだと、あらためて感じさせてくれました。

西 ネタバレになるので詳しく語れませんが、内野さん演じる阿久津と、三浦透子さん扮する節子が繰り広げるシーンも、胸を打たれるすばらしい演技でしたね。三浦さんも内野さん同様、全身全霊で演技に向き合う方で、芝居が進むにつれて内野さんとの絆が深まっているのを感じました。ほかにも、小林聡美さん演じる演出家・小巻沢梨子が主催する劇団のワークショップのシーンも印象的でした。演技力がある役者さんがそろっていたからこそ成立した、コミカルでリアリティーあふれるワンシーンでしたね。

大森 作品に対する理解力が高くないと演じ切れないシーンなので、さぞかし撮影に手こずるだろうと思っていたんですが、驚くほどスムーズに進行して驚きましたよね。キャストの皆さんのたたずまいや存在感が、この作品を作り上げてくれたんだとあらためて感じています。

太田紀江役の風吹ジュン(左)と太田千鹿子役の坂井真紀(右)

生きづらさを抱えるすべての人に見てほしい。「演劇」との関わりがもたらす黄昏たそがれの輝き

――あらためて本作の見どころを教えてください。

大森 普通のどこにでもいる人々が、「演劇」を通して生きる意味を見いだすさまを描いている作品です。誰しも生きていく上でつらいこと、悲しいことがありますが、それでも生きる価値があるということを伝えてくれる一つの表現が「演劇」だと思います。その魅力を、登場人物の生きざまを通して体感していただきたいですね。

西 中学生と老人という世代を超えた絆や、セカンドライフの在り方、ジェンダーの問題など、さまざまな要素が詰まっている作品です。阿久津の回想はある種のラブストーリーですし、かめばかむほど味のある作品だと思います。演劇表現との出会いをきっかけに感性を磨きアンテナを伸ばすことで、日常のささいな出来事への見方が変わっていく―。そんな登場人物たちのように、「今日という1日は単に消化するものではない」と見ている皆さんにも思ってもらえたらうれしいです。ぜひ、登場人物それぞれの視点で何度も繰り返し見ていただけたらと思います。

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クレジット
「連続ドラマW ゴールドサンセット」:Ⓒ白尾悠/小学館 Ⓒ2025 WOWOW INC.