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間宮祥太朗が魅せる、“奥底の見えない演技”を紐解く

文=SYO @SyoCinema

映画ライターSYOさんによる連載「 #やさしい映画論 」。SYOさんならではの「優しい」目線で誰が読んでも心地よい「易しい」コラム。今回は、『映画版 変な家』(’24)で佐藤二朗とともに主演を務めた、間宮祥太朗の“奥底を見せない”演技の魅力について解説します。

 いよいよ2024年も終わりに差し掛かり、1年を振り返るモードになってきた今日この頃。
 日本映画界の今年のトピックスの一つに、今回取り上げる『映画版 変な家』の快進撃が挙げられる。興行収入50億円を突破し、国内実写映画では『キングダム 大将軍の帰還』(’24)、『ラストマイル』(’24)に続く年間第3位に君臨。全体の興行収入ランキングでもトップ10入りは確実だろう(参照元:興行通信社によるランキング)。

 本作は雨穴によるYouTube動画に加筆したベストセラー小説の映画化だが、冒頭に語られる通り独自解釈が強い内容になっている。あらすじは、オカルト専門の動画クリエイター・雨宮(間宮祥太朗)が、マネージャーから購入予定の一軒家の間取りが「変だ」と相談を受けるところから始まる。そこで雨宮は、知人の設計士・栗原(佐藤二朗)に意見を聞くことにするが、それは恐ろしい事件の始まりだった――。

 現代風の始まりから横溝正史的な因習ホラーへとドライブしていく本作で、栗原役の佐藤二朗とともに主演を務めているのが、間宮祥太朗だ。
 なかなかに異質な本作の中で、“逆張り”的な演技を繰り出している。端的にいえば、主演にもかかわらず助演的な動きに徹し、その結果作品の屋台骨になり、あやしさのムードを足す――というテクニカルな動きを見せているのだ。

 間宮祥太朗といえば、『ライチ☆光クラブ』(’16)、『帝一の國』(’17)、『劇場版 お前はまだグンマを知らない』(’17)、『全員死刑』(’17)など、クールな外見×アクの強い役柄で弾ける印象が強いのではないだろうか。
 「東京リベンジャーズ」シリーズ(’21~’23)では、主人公のタケミチ(北村匠海)を食う策士・キサキを熱演。自分は前に出ずに裏で手を回し、周囲を意のままに操る「腕っぷしではなく頭で勝負する」ヴィラン(悪役)をギラつき×冷徹さのコンビネーションで体現していた。

 また、WOWOWオリジナルドラマハスリンボーイでは、奨学金の返済苦に陥り闇社会の“道具屋”として覚醒していく大学生に扮している。闇バイトが世間を騒がす昨今にリンクする社会派エンターテインメントともいえる本作での間宮の変化ぶりにも注目だ。

 そんな数々のキャラクターを演じている間宮だが、『映画版 変な家』では、ほぼ全編にわたって「閉じた」演技を行なっている。観客に対して情報を提供する類のものではなく、むしろ逆のベクトルで、表情も思考も感情も読めない。佐藤二朗や川栄李奈といった共演者たちが役柄上、濃いめの演技を繰り出してくるため“受け”に回る役割もあるだろうが、それ以上に「見せない/見えてこない」ため、観る者の不安がどんどんあおられてくる。「この主人公を信用して大丈夫だろうか?」といった風に……。

 興味深いのは、それが直接的に物語に関わることなく、観客が「なんだか妙に気味が悪いな」と感じるムードの醸成に陰ながら貢献しているということだ。ストーリー自体に連結しない演技のテイストだが(これも実に奇妙)、雰囲気を醸し出す本当の黒幕は彼では? と思わせるいびつなアプローチ。人によっては全く気にならないだろうが、一度意識するとその“妙な気味の悪さ”が拭えなくなってくる――本作の間宮祥太朗は、たまらなく“変”なのだ。

 ここで思い至るのは、『ホットギミック ガールミーツボーイ』(’19)、『殺さない彼と死なない彼女』(’19)、或いは『破戒』(’22)での彼の姿。山戸結希監督の本領発揮ともいえる『ホットギミック ガールミーツボーイ』ではひたすらにアンニュイな主人公の兄に扮し、妹に1人の女性として恋愛感情を抱く自分を“隠す”役どころに挑戦。『殺さない彼と死なない彼女』では、「殺す」が口癖だがその奥には優しさを“秘めた”高校生を演じ、『破戒』では被差別部落に生まれ、生い立ちを誰にも“教えず”に生きる教師を体現した。

 この3作品は、それぞれに事情は違えど周囲の人間に「本当の自分を見せない」という共通項があり、一見すると全く別物に思える『映画版 変な家』でのパフォーマンスは、これらの変異形と言えるのかもしれない。

 …とここまで少しロジカル風に論じてみたが、これらはあくまで僕の解釈であり、本当のところなぜこのような“見せない”演技をしたのかは分からない。その“奥底の見えなさ”こそが、俳優・間宮祥太朗の本質的な魅力なのかもしれない。 

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クレジット:©2024「変な家」製作委員会

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