目の前で母親と恋人が溺れていたら、どっちを助ける? 戸田恵梨香、永野芽郁が共演した『母性』を観て、劇団ひとりとの想い出がフラッシュバックしたスピードワゴン・小沢一敬が心撃ち抜かれたセリフとは?

 映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんが、映画の名セリフを語る連載「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」
 毎回、“オザワ・ワールド”全開で語ってくれるこの連載。映画のトークでありながら、時には音楽談義、時にはプライベートのエピソードと、話があちらこちらに脱線しながら、気が付けば、今まで考えもしなかった映画の新しい一面が見えてくることも。そんな小沢さんが今回ピックアップしたのは、湊かなえの同名小説を廣木隆一監督が映画化した『母性』('22)。戸田恵梨香永野芽郁が母娘役を演じたミステリー・ドラマから、どんな名セリフが飛び出すか?

(※初回放送 9/9(土)後8:00、以降リピート放送あり)

取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken

──今回の作品は、湊かなえさん原作の『母性』です。

小沢一敬(以下、小沢)「うん。最初、俺はミステリーだと思って観てたのよ。湊かなえさんだから、いわゆるイヤミス(“読後に嫌な気分になるミステリー”の略)のジャンルの話なんだろうと思ってて。後で調べたら、原作小説のほうは、わりとミスリードをしたり、どんでん返しのあるミステリー的な作りになってるみたいなんだけど、この映画自体は、そこまでミステリー要素が強くはなかったよね」

──そうですね。母と娘の視点の違いなんかは上手く描いてましたけど、ミステリー要素はそれほど強く感じませんでした。

小沢「どちらかといえば、ホームドラマ的な色合いを強く感じたけど、やっぱり面白かったよね。とにかく俺は、主人公のルミ子役の戸田恵梨香さんも、その娘役の永野芽郁ちゃんも大好きだから、あの2人が出演してるというだけで楽しく観れちゃったんだけど(笑)。ただ、俺は男性だし、子どももいないから、そもそも母性というものを正確に理解できてないと思ってるのね。そういう意味で、俺のような独身の中年男性が観た感想と、女性たちが観た感想は、かなり違ってくるんじゃないのかなと思っていて。実際、この映画が伝えたかったであろう母性というものが何なのか、今でもちょっと分からないままだから」

──小沢さんだけじゃなくて、性別や年齢やそれぞれの家庭環境によって、感想が違ってくる作品かもしれません。

小沢「まあでも、昔からずっと言ってることだけど、俺が地球上で一番好きな生き物は、“母親”という生き物だから。なんとなく『母親ってこういうものなのかもしれないな』っていう気持ちでは観てたんだけどさ」

──独身中年男性である小沢さんとしては、率直にどういう感想でした?

小沢「独身中年男性、小沢としてはね(笑)、まず、三浦誠己さんが演じてた旦那さんが、とにかく頼りないなって思った。もっと彼がいろいろ言ってあげないと、ルミ子さん(戸田恵梨香)がかわいそうでしょ」

──でも、世の中にはああいう旦那さんも、決して少なくないみたいですよ。

小沢「そうなのかもしれないね。高畑淳子さんが演じてたルミ子さんの義母だって、ああいうかんしゃく持ちのおしゅうとさんって、実際にいるんだろうね」

──あそこまで激しくはないにしても、いますね。

小沢「あとさ、物語の中盤の火事のシーンで、母親を助けるか娘を助けるか、みたいになる場面があったじゃん。あそこで思い出したのが、よくある“究極の選択”の『目の前で母親と恋人が溺れていたら、どっちを助ける?』ってやつで。昔、みんなで飲んでる時にその話になったことがあって、だいたいみんな、『母親の代わりはいないから』っていう理由で母親を選んでたんだけど、劇団ひとりさんだけが『俺は恋人を助ける』って言ってたのね。その理由を聞いたら、『きっと俺のお母さんがそれを望むから』って。それがすごくいい答えだなって、ずっと思ってたことをこの映画を観て思い出した」

──小沢さんは、母親と恋人、どちらを助けるんですか?

小沢「俺はねぇ、選べない」

──それはズルい(笑)。

小沢「選ぶのは怖いから。どちらか選ぶぐらいなら、みんなで一緒に溺れて死ぬよ(笑)」

──小沢さんが「地球上の生き物の中で母親が一番好き」と言えちゃうのは、やっぱり小沢さん自身のお母さんの影響もあるんですか?

小沢「そうだね。うちの母親はいつでも俺の味方だったから。もちろん、子どもの頃に悪いことをしたら怒られたりもしたよ。夜遊びしてたら、はだしのままで追いかけられたこともあったし(笑)。でも、それだけ気にかけてくれてたってことだからね」

──とても大切に育ててもらったんですね。

小沢「そうだと思う。いつでも陽気な人で、天気がいい日はオリジナルの歌を歌いながら掃除をしてるような人だからね。最近も電話で長話ししたり。だから、そういう俺の母親の母性と、この映画に出てくる母親たちの母性とは、ちょっと違う気がするんだよね。この映画の母親たちの母性は、シリアスというか、ちょっと怖いじゃない。愛するあまり深刻になりすぎてるというか。大地真央さんが演じてたルミ子のお母さんだって、一見するとすごく優しくて美しいお母さんだけど、見方によっては怖いもん。まあ、いろいろとハードな映画だったよね」

──ちなみに、よく世の中の女性が、男性について「母性本能をくすぐられるタイプ」みたいに表現することがありますけど、小沢さんがそういうことを言われたり、感じたりしたことってありますか?

小沢「それはあんまり感じたことないなぁ。だってさ、俺ぐらいの年齢になってくると、周りにいる女性は年下が多くなってくるわけだから、むしろ、俺の父性のほうが勝っちゃうのよ(笑)」

──それはそうかもしれませんね。では、そんな父性あふれる小沢さんが、今回の作品の中で一番シビれた名セリフは?

<※ここから先はネタバレを含みますのでご注意ください>

小沢「俺の好きなセリフというか、この映画の一番のキーになるセリフだと思ったのが、『あなたはもう、子どもじゃないの! 母親なの!』だよね」

母親(大地真央)の愛情を一身に受けて育ち、自身も母親を溺愛していたルミ子(戸田恵梨香)。やがて彼女も結婚して母となる。ルミ子の娘の清佳(永野芽郁)は、そんな母から愛してもらいたいと願っていた。ある日、台風による倒木で家が押しつぶされ、客間で寝ていたルミ子の母親と清佳がたんすの下敷きになる事件が発生。停電のため使用したロウソクの火が家具に燃え移ってしまう。火事で家とルミ子の母を失った2人は、喪失感を抱えたままルミ子の夫(三浦誠己)の実家で暮らすことに。普通に見えた日常に静かに刻み込まれた傷跡。愛せない母と、愛されたい娘。同じ時、同じ出来事を回想しているはずなのに、2人の話は次第に食い違っていく。

──火事のシーンで出てくるセリフですね。

小沢「なんて言うか、すごく難しい話なんだけどさ、俺が思ってる最近のテーマの一つとして、『女性はみんなこう思ってる』とか言うのを、もうやめたいのよ。だから、母性うんぬんについてしゃべるのも嫌なんだよ、ホントは」

──「女性」というひとくくりで語るのはやめようよ、ということですか?

小沢「そうそう。もう今は、『女性には誰しも母性がある』みたいに考える時代じゃないじゃん。だから、もしかするとこの映画もそれがテーマなのかもしれないよね。『母親なんだから、こういうときはこういう行動を取らなきゃいけない』とか、『娘は母親に対してこう思うべきだ』みたいな、いわゆるステレオタイプの母性や親子関係というものに対して、『いやいや、世の中に正しいものなんて何もないんだよ』ってことを言いたいのかもしれない」

──言われてみれば、そういう投げかけとも読み取れますよね。

小沢「『女の子だから母性が強いよね』みたいな言い方されることがあるけど、それは『女の子だから』じゃなくて、ただ単にそういう性格の人なだけなんだよって思ってるの、俺は」

──それはその通りだと思います。

小沢「だからこそ、このセリフに意味があると思うんだけど。われわれはみんな、女性には生まれつきの母性が備わってるものだと思ってきたけど、もしかするとそれは、誰しもが持ってるわけではなくて、生きていく中でそれぞれが自分で手に入れていくものなんじゃないかと。毎日の生活や環境、人との触れ合いとか、いろんなきっかけの中で。だから、男性がみんな肉体的に強いわけじゃないのと同じように、女性にも必ず母性があるわけじゃないし、母性のない女性が女性として何か間違ってるわけでもないと思うんだ。このルミ子のように、実際に子どもを産んでも母親に成りきれない人だっているだろうし」

──「女性には母性がある」って当たり前に思ってることが、すでに押し付けですもんね。

小沢「そうなのよ。だから、母性ということについて、母親とか、女性とか、分母を大きくして語ろうとすること自体が間違ってるわけで。地球上に何十億人の母親がいるわけじゃなくて、一人一人の母親が何十億パターンもあるだけなんだよって。だから、そういう風に考えられるきっかけになる、今の時代にちょうどいい映画かもしれないよね、これは。『母性ってこういうものだ!』って押し付ける映画ではなくて、『母性って、みんなが考えるほど簡単なものではないし、人それぞれ違っていいんだよ』っていう救いの映画なのかも」

──母親になったからといって、義務的に母性を持たなきゃいけないわけじゃないと。

小沢「『私には母性がないのかもしれない』って悩む母親もいるかもしれない。でも、そうやって悩むことは何も悪いことじゃないし、そんなに悩むぐらい子どものことを考えてるってことだから、もう、それがすでにその人の母性なのかもしれないわけで。そうやって『母性に正解なんてないんだよ』ってことを教えてくれてる。わりとハードな物語なんだけど、その中で伝えようとしていることを良い意味で受け取るなら、そういう映画なのかなって」

──いや、この映画をそんな角度でポジティブに捉えられるとは思ってもみませんでした。

小沢「ホント? まあ、俺は結局、永野芽郁ちゃんが出ているものが全部好きなだけだから(笑)。顔も好きだし、空気感も、しゃべり方も、声も好き。特に声がいいよね。お父さんに、『弱虫!』って怒るところとか、お婆ちゃんに『お寺に何百万も寄付するなら、ママにちゃんとお給料払ってよ!』って文句を言うところとか、いいよねぇ。ああいう永野芽郁ちゃんをずっと見ていたいねぇ」

──最終的には、ただの永野芽郁ちゃんファンでしかなくなった(笑)。

小沢「うん。俺の中の父性が、永野芽郁ちゃんをめでるね」

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クレジット:(c)2012湊かなえ/新潮社 (c)2022映画「母性」製作委員会

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