〈中山功太〉韓国映画を観て感じた、いくつもの”恐ろしさ”【#エンタメ視聴体験記】

 お笑い芸人の中山功太さんが、WOWOWの多岐にわたるジャンルの中から、今見たい作品を見て“視聴体験”を綴る、読んで楽しい新感覚のコラム連載企画「#エンタメ視聴体験記 ~中山功太 meets WOWOW~」
 今回は、韓国映画『四月の雪』(※配信は終了しました)を見た体験を中山さんならではの視点で綴ります。

文=中山功太

 今は東京に住んでいるが、まだ地元の大阪にいた20代後半の頃、仕事で週に1本、映画を観させていただいていた。
 僕は元々、まったく詳しくはないが映画を観るのは好きで、その仕事をしている時、コラムのために映画が観られる今と同じように、単純にラッキーだと感じていた。
 その頃、初めて韓国映画を観た。
 
 それまで韓国の作品に触れることがなく、日本でも一大旋風を巻き起こした「冬のソナタ」もパチンコでしか知らず、「なるほど、ヨン様はカッコいいし、雪降っててムードあるな」というペラペラの知識しかなかった。

 初めて観た韓国映画は、腰が抜けるほど面白かった。
 
 映画を「面白い」と感じる時は、さまざまな意味合いがあると思うが、その後に観た韓国映画も、どれもこれも面白かった。もちろん作風は監督や脚本によって違うのだが、僕が何本も観て感じたのは「韓国映画はとにかく丁寧」だということだ。
 今回、観させていただいた『四月の雪』(’05)も、その例に漏れず、恐ろしいほどに丁寧な作品だった。

 主演は先述の「冬のソナタ」で日本の女性をとりこにしたぺ・ヨンジュン。ヒロインはスタイル抜群の知らない美人女優。監督は多分ロマンティックな知らない男性。恐らく僕が知らないだけなのだが、知らないものは知らないと正直に書いていこうと思う。怒られたら次回からはやめていこうとも思う。
 
 あらすじは、男女の乗った車が交通事故に遭い、ともに意識不明の重体となる。彼らにはおのおの伴侶がいた。苦悩するそれぞれの夫と妻。やがて2人は...という暗く、重い内容なのだが、それ以上に、この映画はあまりにも美しい。偏執的なまでに丁寧な作りで、ラストまで適度に胸を締め付けてくる。
 
 2005年の作品ということもあり、「ヨン様(眼鏡あり)」「雪」「ラブストーリー」となると、「“冬ソナ”の感じでもう一丁メイクマネー行っとく系か?」と邪推するやからも多かったはずだが、この作品はまったくもってそんな"ハズレのヨン様のPV"ではない。そもそもそんなものはこの世に無いのだが。

 丁寧さ以外にも「恐ろしい」と感じたポイントは幾つもある。まず、恐ろしいほどに主要キャストが少ない。
 
 ペ・ヨンジュンとヒロイン以外は、それぞれの妻と夫ですら意識不明ということもあり、脇役といっても過言ではない。性格やバックボーンすら見えてこない。いや、恐らく、見せていない。だからこそ、主演2人の行動や心情が浮き彫りになっている。
 登場人物が多い作品ももちろん魅力的だが、脚本がお粗末だと、ゴチャゴチャしてついていけない時がある。この作品にはそれがない。

 あるのかどうかは知らないが、アニメ版「ウォーリーをさがせ!」で動き回るウォーリーがガラガラの遊園地にいたら、きっと見つけやすいだろう。そしてウォーリーだけを目で追える。そうなると、ウォーリーの意外な寝癖や、メガネの劣化具合や、ボーダーの服のほつれにも気付けるかもしれない。本作はそれぐらい観るべきポイントを絞ってくれている。

 そして、恐ろしいほどにセリフが少ない。
 
 ペ・ヨンジュンは無口な役柄だということを差し引いても無口過ぎる。相手の女優さんも、決して明るい役柄ではないとはいえ暗過ぎる。2人は無駄な会話を交わさない。見せられるところはすべて表情や間で魅せる。だからこそ共感できる。
 ラブストーリーは人に共感させたり、感情移入させることが重要だと感じているので「あるある」から外れたセリフは極力少ない方がいいと思う。
 
 本作でのペ・ヨンジュンの役柄は舞台照明さんなのだが、ヒロインに職業を聞かれるシーンで、恐ろしいほどシンプルで素敵な返答をする。

 ここでわざわざ「いろいろなサイズの赤とか青とかのフィルムを照明器具に貼って、設営の時に肉か魚のお弁当を選んで食べて、撤収の時は機材用エレベーターに機材とスタッフ積めるだけ積んで...」などと言われたら、観る人の心が離れてしまう。きっと今、この文章を読んだ貴方の心も離れてしまったに違いない。
 
 さらに本作は、エキストラの演技が恐ろしいほどに自然だ。
 
 まるで映画を撮っていることを知らせていないかのように、通行人が歩き、病院の人たちは働き、時にはネコが横切る。エキストラがエキストラ然としてそこに居ることで、重複するが、主演2人が圧倒的に際立っている。
 僕にも経験があるが、エキストラとして「普通に歩いてください」と言われた時、演技の下手な自分は、普通に歩けない。「エキストラ。映画撮影中」と書いてあるかのような顔をして、昭和初期ロボット歩きをしてしまう。きっと本作では監督が、エキストラの方も役者さんで固めて、念入りに演技指導をしたに違いない。
 
 ほかにも挙げればキリがないが、本作は細部にわたって「恐ろしいほどに丁寧」な映画だった。ストーリーもさることながら、僕はそこにも感動した。
 
 どの業界でもそうだと思うが、仕事は手を抜こうと思えばいくらでも抜けるようになっている。「迅速かつ丁寧に」などと言われても、急いで大量の封筒にのり付けすれば不良品は増えるはずだ。映画という、明確な納期があるであろう商品を、職人気質で丹精込めて作った監督に敬意を表したい。
 
 最後に、本作はベッドシーンも恐ろしいほどに丁寧だ。身悶えながら観て欲しい。

▼『四月の雪』の詳細はこちら

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 クレジット(トップ画像)
『四月の雪』:(c)2005 By Show East CO.,Ltd. & Bluestorm co.Ltd. All Rights Reserved.(c)2005 Universal Studios All Rights Reserved


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