〈中山功太〉無知な僕が“宇宙の真実”を知って震えた日【#エンタメ視聴体験記】
文=中山功太
僕は自分でも怖いぐらい無知だ。
日本に生まれ育って、仕事でも全箇所お邪魔しているはずなのに、47都道府県を全部は言えない。九州も調子が良い時でさえ5つしか浮かばない。さすがに四国は4つ言えるが、四国の地図に県名を書けと言われたら、ただの賭けになってしまう。
冒頭から引いてしまった方もおられるかも知れないが、「無知の知」を自覚している分だけマシだと思う。もちろん「無知の知」を唱えた昔の偉い人の名前も知らない。いま調べたら「ソクラテス」と出てきた。その人の名前は知っている。語呂が良くて、発声した時に口が気持ちいいからだ。
自己分析をすると、僕は自分の興味の無い事は片っ端から、脳内から捨ててきたのだと思う。
学生時代の学力は中の中だったが、興味の無い地理や化学のテストは、全力で記入した上で正式に0点を取っていた。高校3年生の時、理数の成績が悪すぎて留年しそうになり家庭教師をつけてもらったぐらいだ。
個人的には、冒頭の都道府県名に関しても、ロケなどの仕事でない限り「東北のお魚なに食べてもおいしかったところ」とか「名古屋より上の方にある商店街広かったあそこ」とかの方が思い出にも残るし、それでいいと思っていた。
が、今は良しと思っていない。
40を過ぎて一般教養を持ち合わせていない事を今さらながら恥じている。このままでは、いや、もう既に僕は「無知の知のみ知る無」である。
前置きが長くなってしまったが、そんな折、今作「ザ・プラネッツ 太陽系ものがたり」を見つけて、鑑賞した。
日本の事も、それ以上に世界の事も知らない自分だからこそ、宇宙の事を教えてもらいたくなったのだ。カメラで言うと、一回引きの画面からゆっくりズームインしてみようという魂胆だ。
再生すると、ナビゲーターのデヴィッド・ボウイに似た外国人男性が太陽系惑星の説明などを語り出す。高画質のCGと実際の宇宙の映像に壮大な音楽とナレーションを乗せて、惑星の解説や仮説を淡々と、時に強い言葉で投げかけてくれる。テンポも凄く良い。
恥ずかしながら、ワクワクした。
自分の中の知的好奇心を串刺しにされた。自分が学生の頃、視聴覚室でこんな作品を観せられていたら、勉強への取り組みも変わっていたのではないか?とすら思えた。
このワクワク感は、プラネタリウムが始まる前のナレーションに似ている。僕はプラネタリウム本編よりあの語りの方が好きなので、まさにドンピシャだった。
宇宙初心者の自分にとって、本作はまさに目からウロコだった。
まず宇宙で岩石ができて、それが数十億年かけて固まり、さらに数億年かけて球体になり、地球型惑星が誕生したらしい。永年の川の水流で石が丸く削られていったと聞くが、あれの数十億倍だなと感じた。
これはもう、奇跡ではなく、努力だ。
夢中で観ていると、まだまだ驚かせてくる。
僕は、水星はその名の通り水浸しだと思っていた。最低でも海や川はあると信じていた。ところが、最も太陽に近く、初期は鬼の様に燃え盛っていたらしい。
水星は水でブヨブヨで歩いたらムニムニだと信じてた昨日までの僕、さよなら。
逆に、燃え盛りマグマ吹き出し放題だと思っていた火星は、中期からはそこまで熱くないらしい。たまに耳にする、人類火星移住化計画の都市伝説もあながち夢想ではないのかも知れない。
火星と聞くとタコ宇宙人が浮かんでいた昨日までの僕、お疲れ様。
宇宙初心者にとって敷居が高いイメージの金星の実態には驚愕した。
なんと、最も地球に条件が近く、知的生命体が活動するのに適しているのだそうだ。太陽との距離さえ合っていればなぁ…という、かなりの惜しさだったらしい。
実際には火星にいるであろう微生物さえいないという見解だそうだ。個人的には金星人にはいて欲しかった。金色の人間がいると信じていた。
若手の頃、宇宙あるあるという大喜利のお題で「金星人、美人」と答えて大幅にスベッたあの日の僕、元気してますか?
驚きばかりではなく、イメージ通りのシーンもあった。
途中に挟まれる、惑星を撮影した写真だ。火星はちゃんと赤いし、木星はちゃんと木の色をしていた。だけどあれはサービス精神で色彩を加工してくれていたのかな?とも感じた。
水星が真っ赤だったら世界が興ざめするかも知れないだろう。「別の星を撮ったんじゃないか?」とクレームを入れるヤカラもいただろう。
その辺り、NASAの方と膝突き合わせてお話してみたい。イチ宇宙ファンとしてその機会は設けて欲しい。
「もっとくれ。もっと宇宙くれ」と興奮しながら観ていると、ついに地球の解説が始まった。
「地球こそ最もユニークな惑星」というフレーズにシビれながらしみじみと感じた。
「生命体がいなかった他の惑星が悪いんじゃない。地球は奇跡だから。他の惑星も胸張って今後も回り続けて欲しい」
そんな高校野球監督じみた思いにふけっている矢先、ショッキングなナレーションと映像が飛び込んできた。
僕は持っていた甘いパンを落とし、甘いパンを拾う時に、甘くないコーヒーをこぼした。
それは、ずっと先の未来の話とはいえ、長らく地球に住まわせてもらっている地球の箱推しとしては看過できない予測だった。
ネタバレになるので決して言えないが、皆さまの目と耳で確かめていただきたい。向こう数億年の異常事態を、淡々と、時に強い言葉で投げかけられる事になるだろう。
しかし今作は希望で幕を閉じる。
さらに数億年先に、ルックスも良く人気がある「あの惑星」が宇宙を救ってくれるのだそうだ。僕はまるで少年漫画を読んでいるかの様に興奮した。
「宇宙にはロマンがある」と昔から耳にしていたが、今の僕はこう思う。
「ロマンが宇宙を創ったのかも知れない」
どういう意味だろう?
駄目だ、宇宙酔いしている。これ以上思想を巡らすと神様がどうとか宇宙など無いとか、良くない事を書き出してセミナーでも開きそうなのでやめておこう。
本編終了後に、科学者や宇宙飛行士の短いインタビューがある。いかに工夫したか? どこに苦労したか?
天才と呼ばれる者たちも人知れず苦悩し、宇宙という巨大なモノと対峙し、人生を懸けているのだなと、胸が熱くなった。国は違えどまるで「下町ロケット」の様だ。
無知だから観た事ないけど。
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クレジット(トップ画像)「ザ・プラネッツ 太陽系ものがたり」:© BBC 2019