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一生くだらないことだけ考えて生きていきたい私にとって、映画『少林サッカー』は財産だ。【#エンタメ視聴体験記/ぼる塾・酒寄希望】

 お笑い芸人・ぼる塾の酒寄希望さんが、WOWOWの多岐にわたるジャンルの中から、今見たい作品を見て“視聴体験”を綴る、読んで楽しい新感覚のコラム連載企画「#エンタメ視聴体験記 ~酒寄希望 meets WOWOW~」。 
 今回は、『少林サッカー』を見た体験を酒寄さんならではの視点で綴ります。

 文=酒寄希望

 皆さんこんにちは。ぼる塾の酒寄です。
 
 私「一生くだらないことだけを考えて生きていきたい」

 私はそう言って、夫の前で本気で泣いたことがあります。そんな私に夫は言いました。

 夫「頼むから『少林サッカー』を見てほしい」

 夫は言いました。

 夫「頼むから『少林サッカー』を見てほしい。吹き替え版で」

 私「字幕ではなく?」

 夫「吹き替え版で見てほしい。字幕が悪いわけではない。『少林サッカー』の吹き替えが良過ぎる」

 夫は言いました。

 夫「『少林サッカー』が何かの役に立つかはわからない。でも間違いなくあなたのかけがえのない財産になる」

 こうして私は『少林サッカー』の吹き替え版を見ることにしました。

かつてはサッカーの名選手だったが、今では昔のチームメイト、ハンの雑用係をするまでに落ちぶれていた男性、ファン。ある日彼は、街で少林拳法の普及に努める青年シンと出会う。ファンにその抜群の脚力を見込まれ、サッカーをやることになったシンは、かつてともに少林拳法を学んだ仲間を集めてチームを結成。彼らは少林拳法で鍛えた超人的な技を駆使してサッカーの全国大会を勝ち進み、ハン率いる常勝チームと決勝戦で激突する。

WOWOWオンデマンド(公式サイト)より

 少林拳法とサッカーが合体して少林サッカー。恐らくこの映画を見てサッカーを始めた少年はひとりもいないと思います。とんでもないサッカーです。

 少林拳法と合体したサッカーは、ボールが炎をまとった獣に変身します。ボールの威力が強過ぎて服が吹き飛び全裸になったりします。選手は空も飛びます。ですが、みんな真剣に【サッカー】をしています。

 私「すごい…ストーリーの大分序盤から、どこで切っても『はい!これは夢オチでした~!』が成立するカオスな世界を一切の夢オチを使わずに最後まで突っ走っている…。しかも世界観はふざけているけど、登場人物は誰ひとりふざけていない。皆が大まじめにサッカーをしている」

 少林サッカーを説明すること自体が間違っているかもしれません。夫も「面白過ぎる」としか事前情報をくれませんでした。ですが、一応説明します。

 少林サッカーは、かつて名選手だったが八百長試合をしてしまったために今は落ちぶれているファンと、少林拳法の普及を夢見る青年シンの出会いから始まります。

 ファンはチームメイトのハンにそそのかされて行った八百長により、怒ったサポーターに足を破壊されて選手生命を絶たれていました。以前は自分よりも劣っていたハンが、今はサッカー界の絶対的な実力者へとのしあがり、ファンはそのハンの雑用係になっています。ファンは青年シンと出会う直前に、「あのときサポーターに足を襲うように指示したのは自分だ」と、ハンから最低の事実を打ち明けられて人生のどん底中のどん底にいます。

 ファン、ハン、シンなど文字で見ると名前がややこしいのでここで一応整理します。

 シン・・・才能を持った主人公
 ファン・・・かつての名選手。シンの監督になる人。
 ハン・・・この映画のラスボス。わかりやすい嫌な奴

 少林サッカーは王道スポーツものと展開はほぼ同じです。主人公シンの性格も王道の主人公です。シンは【鋼鉄の脚】を持っており、その身体能力の高さ(蹴ったボールが空高く飛んで消える…など、ほか多数)を目の当たりにしたファンは、その才能に惚れこんでシンにサッカーを勧めます。シンはサッカーが少林拳法の宣伝になると思い、二人はサッカーチームを作り始めます。

 シンがサッカーを始める前にも通りすがりの人たちとミュージカルをする場面など色々あるのですが、少林サッカーで起こる現象のすべてに触れていくと、一生サッカーまで辿り着けないので悔しいですが割愛します。

 シンはかつての少林拳の兄弟子たちをサッカーに勧誘します。シンが【鋼鉄の脚】を持っているように、それぞれ【鉄の頭】【旋風脚】【鎧の肌】【魔の手】【軽功・空渡り】など得意技を持っているのですが、それは昔の話であり、皆人生がうまくいっていません。シンの勧誘も「昔のことだ」と言って拒否します。しかし、少林拳時代の集合写真をそれぞれの兄弟子たちが見ている数秒の場面が入った後すぐに、「おれたちも協力するぜ!」と一気にサッカーチーム「少林隊」が結成されます。皆ものすごく拒否したわりに一瞬で乗り気になります。

 その後、体がなまっているおじさんたちが一生懸命、でも楽しそうにサッカーの練習をしているシーンがあり、すぐに「少林隊」にとって初めての練習試合になります。

 この練習試合が始まってみるととんでもなく相手チームは不良軍団で、凶器が登場します。複数人でひとりを殴る蹴るなど、『これはラフプレーではなく間違いなくリンチである』という試合内容で、「少林隊」のメンバーはボコボコにされてしまいます。サッカーを始めたばかりの少林拳の使い手側が、「こんなのサッカーじゃない!」と言うほどです。しかし、「少林隊」の監督になったファンは、

 ファン「こんなんで逃げたらサッカーは勝てないぞ!」

 と、一喝します。この練習試合中に「少林隊」は覚醒。かつての自分を思い出し、少林拳とサッカーを融合させた見事な動きを見せます。シンが放ったシュートの威力が強過ぎて相手チームのゴールポストをグニャリと曲げてしまい、恐れをなした不良軍団は降伏します。そして不良軍団はそのまま「少林隊」に加入します。

 ここから「少林隊」はハン(嫌なやつ)が大会の委員長を務めるサッカーの大会に参加し、相手チームに40対0で勝利するなど快進撃を続けます。相手チームが「悪い夢を見ているようだ」と言っていましたが、本当に風邪をひいたときに見る夢のような試合を「少林隊」はやってのけます。(シュートの威力が強過ぎて、敵チームのメンバー全員ごと相手ゴールに入ってしまうなど)

『少林サッカー』:ALL RIGHTS ARE RESERVED BY THE STAR OVER

 私「もう少林隊に勝てるサッカーチームはいないよ!」

 ですが、決勝相手のハンが監督する「デビルチーム」は水中で機械を使った謎の特訓をする危険なチームでした。「少林隊」との試合にアメリカが開発した最高の薬をドーピングしてくるのですが、

 私「アメリカをなんだと思っている!」

 と、私が思うほど、ドーピングでも絶対にそこまではいけないレベルの動きを見せます。(味方のゴールキーパーが敵チームのシュートの威力で吹っ飛び、客席の看板に全身を打つなど)しかも、審判含めて大会関係者はハンに買収されており、絶体絶命の「少林隊」。この決勝試合に勝つことができるのか!

 そして、“トンデモ映画”の少林サッカーにも、恋の要素はあります。恋愛映画以外のジャンルに含まれる恋の要素は人によっては邪魔に感じることもあるかと思いますが、少林サッカーは恋愛映画に負けないくらいヒロインのムイちゃんの存在が輝いています。主人公のシンが自分に自信の無いムイちゃんに対し、

 シン「自信を持て!」

 と、何度も何度も心を込めて言ってくれるのですが、私自身に向けて言われたようでぐっときました。

 少林サッカーに説明は不要と言いましたが、長々と書いてしまいました。私の少林サッカーに対する思い、本当は一言ですみます。「最高にくだらない映画(褒め言葉)」です。

 私「一生くだらないことだけ考えて生きていきたい私にとって、この映画は財産だ。一生少林サッカーのことを考えて生きていこう」

 私は夫に感謝しました。常に、「そんなところでつまずくな!」というところで、つまずきっぱなしの私に対し、怒るでも呆れるでもなく、『少林サッカー(吹替版)』を紹介してくれた夫。

 私「突然ですが、私は人間性に問題があるので、あなたと結婚していなかったら恐らく結婚というものができなかったと思います」

 夫「え、急に何? 自分は恋愛に憧れていたから、あなたと出会えていなかったら恐らく別の人と結婚していたと思う」

 私「そうですか」

 夫「でも今の人生が一番面白い人生だと思っているよ」

 私の頭の中で青年シンが、「自信を持て!」と言ってくれた気がしました。

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おわりに・・・

 今回取り上げることはありませんでしたが、酒寄さんが気になった作品を酒寄さんならではの視点でご紹介します。

『マダムフローレンス!夢見るふたり』
 物語が驚きの展開続きで、これが実話をもとにした映画であることに衝撃を受けました。実在の人物である音痴のソプラノ歌手、フローレンス・フォスター・ジェンキンスを名女優のメリル・ストリープが演じているのですが、彼女と夫であるシンクレアの関係がいびつなのに間違いなく愛にあふれていて、夫婦とは「二人の世界」なのだと実感しました。歌を心から愛する彼女が「もう歌わない」と決めたとき、その後に繋がる言葉にぐっときます。音楽を愛する人はもちろん、大切に思う人がいる方にはぜひ見ていただきたいです。コメディシーンが非常に多いので、実際のフローレンスがとても愛らしい人だったのかなと思いました。

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「リンジー・ローハン・ビーチクラブ~お騒がせ女優が営む海の家~」
 リンジ―・ローハンには本当に申し訳ないのですが、私は“ゴシップ紙の常連さん”という印象が一番強い女優さんでした。そんなリンジー・ローハンがミコノス島に「ローハン・ビーチハウス」をオープンし、アメリカ中から集めた最高の人材のボスになります。彼女の今までの苦悩、そしてボスとしての才能など、番組を見ていくうちに私は彼女の事を今まで写真と文字だけで決めつけていたのだなと反省するほどに魅力あふれる素敵な女性でした。彼女の店で働く人々も個性的で目が離せなくなります。登場する人は全員イケイケですが、イケイケであることは人生イージーモードなのではなく、全員努力を惜しまない人たちなのです。

「リンジー・ローハン・ビーチクラブ~お騒がせ女優が営む海の家~」を今すぐ視聴するならコチラ!

「遠藤憲一と宮藤官九郎の勉強させていただきます」
 
脚本・宮藤官九郎×主演・遠藤憲一×豪華ゲスト陣で送る、前代未聞のワンシチュエーションコメディです。もう番組のテーマが最高過ぎます! 全7話あり、各話のゲストは小栗旬、仲里依紗、加藤諒、高畑淳子、野村周平、水野美紀、髙嶋政伸、桃井かおり。豪華過ぎませんか? 「同じ台本の同じ役を演じても、演じる役者によってその役は大きく変わる」その言葉をこんなに面白く伝えてくれる番組はほかにありません。ラストに番組を振り返るトークコーナーもあり、そちらもとても楽しいです。普段役者さんが上手過ぎて逆に演技がうまいことに気付かないのですが、改めて役者さんってすごいと実感しました。

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トップ画像(クレジット):『少林サッカー』:ALL RIGHTS ARE RESERVED BY THE STAR OVER