前世を記憶する子どもたちのセリフにゾッとする――大泉洋、有村架純、目黒蓮、柴咲コウらが共演した『月の満ち欠け』を観てスピードワゴン・小沢一敬が心撃ち抜かれたセリフとは?
(※初回放送 10/7(土)後8:00、以降リピート放送あり)
取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken
──たまたまなんですが、今回は前回の連載と同じ廣木隆一監督の作品となりました。
小沢一敬(以下、小沢)「前回ここでしゃべった『母性』('22)も廣木隆一監督だっけ? 今回の『月の満ち欠け』は、思ってたよりも不思議な話だったね。なんて言うか、『世にも奇妙な物語』('90~)みたいにも感じるというか。原作は直木賞作品なんでしょ?」
──2017年に第157回直木賞を受賞した佐藤正午さんのベストセラー小説が原作です。ただ、原作とは物語の流れとかが多少違ってるみたいですけど。
小沢「そうなんだ。なんか、これは改めて原作も読んでみたいなって思った。構成がすごく複雑で、原作ではどうなってるのかが気になるから。たぶん、原作よりも映画のほうが分かりやすくなってるはずだもんね」
──現在が2007年という設定で、その他に過去の80年代と90年代の話も出てきて、それが複雑に絡み合っていきますからね。
小沢「少し前にさ、手塚治虫先生の『火の鳥』シリーズについてしゃべる仕事があって、たまたま『火の鳥』の漫画を読み返してたんだよね。そんなタイミングで、この『月の満ち欠け』も『火の鳥』も同じ輪廻転生がテーマのような話だから、そこにすごく偶然を感じた部分はあるんだけど。ただ、この映画は、マジな話、ちょっと怖かったよね。ある意味でホラー映画と言ってもいいぐらいの物語だったから。そういう話だと思ってなかったから、途中から思わず笑っちゃったもん、怖すぎて(笑)。俺は子どもがいないから分からないけど、子どもを持ってるお父さんが『あなたの娘さんは○○の生まれ変わりです』なんて言われたら、どう思うんだろうなっていうのも気になったよ」
<※ここから先はストーリーに触れている部分や一部ネタバレ表現がありますのでご了承ください>
──僕はまさに娘を持つ父親ですけど、あんなことを実際に誰かに言われたら、かなり気持ち悪いし、めちゃくちゃ怒るでしょうね。
小沢「そうだよね。大泉洋さん演じる小山内さんもセリフの中で言ってるけど、『自分の娘が別の人間だったなんて話は、冗談でも受け入れられない』って怒るよね、普通は。そうしたら、娘の親友のゆい役の伊藤沙莉ちゃんが『こう考えたら少しは楽になりませんか。この世に生まれた命は、みんな誰かの生まれ変わりだって』みたいなことを言うんだけど、いやいや、楽にならない、ならない! 『そうですね』ってのみ込めないって(笑)」
──みんな生まれ変わりだから仕方ないね、とはならないですね、絶対。
小沢「そういう意味では、小山内さんがそこはちゃんと怒ってくれたからよかったよ。それでも最後にはそれを受け入れざるを得なくなってくるんだけど、そこまでの葛藤の部分がちゃんと描かれてたから。あとは、怖い話だと思いつつも、最後のほうで小山内さんが娘の誕生会の時のビデオを観るシーンでは、自然に泣けちゃったよね。ビデオの中で夫婦のなれ初めを語る妻の梢役の柴咲コウさんのお芝居が、とにかくすばらしすぎて」
──小沢さんが大好きな有村架純さんも出演されていました。
小沢「有村架純ちゃん、いいよねぇ、やっぱり。これは褒め言葉なんだけどさ、彼女はどの作品を観ても“幸せじゃないオーラ”が出てるのよ。だから、すごく物語の主人公向きなんだよね。いつでも“幸せになりたがってる感”が出てる」
──それは、すごく分かります。
小沢「もちろん、本人がリアルに幸せそうじゃないとかって話ではなくてね。そういう雰囲気を出すのがうまいというか。どうしても、持って生まれた幸せそうなオーラを消せない人っているじゃん。そういう人だと、あの役は難しかったと思うんだ。だけど、有村架純ちゃんは、常に何かが満ち足りてない表情とか雰囲気を出すのが上手だから。そういうところは、まさに彼女の才能だなって思うよ、毎回。そこがいいんだよね」
──陰があるっていうのとも、ちょっと違うんですけどね。
小沢「うん。いつも超絶前向きハッピー!っていう根っこじゃないんだろうなって。そういうのが見えるのがいいんだよ。それがすべて彼女のお芝居の技術だとしたら、なおさらにすごいことだしね」
──そんな有村さんの相手役を務めていたのは、目黒蓮さんです。
小沢「目黒君もいいよ。昨日、ちょうど漫才についてしゃべる仕事があって、その時に言ってたんだけど、漫才の中には『漫才ってこういうことでしょ』みたいなことをわざとやる漫才というものがあって。俺は正直、それがあんまり好きじゃないのね。それはそれで一つの様式美としてありだとは思うけど。やっぱり俺は、自然な形で『この人だったらこういうツッコミを入れそう』って思わせるような漫才のほうが好きなの。そういう意味で、目黒君のお芝居も、いつも自然な感じでしょ。『この役柄の人だったら、こうやってしゃべるだろうな』って思わせてくれる。あと、彼自身の性格の良さとか育ちの良さがいつも出てるよね。親に愛されて育ったんだろうなぁ、って思うわ(笑)」
──そんな2人が抱擁するシーンも美しかったですね。
小沢「ただ、ちょっと思ったのは、あの抱擁のシーンは有村架純ちゃんと目黒蓮君だから美しいんだけれども、物語の展開としては、実は50歳ぐらいのおじさんが『ずっと待ってたんです』って言いながら7歳ぐらいの女の子を抱きしめてるわけだよね? それを想像すると怖いよね(笑)。だからこそ、あそこはあの2人の映像で幻想的に見せてたんだろうけど」
──実際に街角で小さい子とおじさんが感極まって抱き合っていたら、かなりビックリしますよ。
小沢「でもさ、それをリアルな現実世界の夫婦に置き換えてみると、加藤茶さんと奥さんの年齢差って、ちょうどそのぐらいだったはずだから。『そうか、あのご夫婦はこういうことだったのか』とも思ったよね(笑)」
──では、そんな怖くもあり美しくもあるこの作品の中から、小沢さんが一番シビれた名セリフを教えてください。
小沢「今回は、名セリフというよりも、一番怖かったセリフとして、『生まれ変わりは私だけとは限らないよ』だね」
──生まれ変わった“3人目の瑠璃”でもある、子どもの瑠璃ちゃんが、小山内に対して言うセリフですね。
小沢「とにかく、後半がずっと怖いのよ(笑)。特に生まれ変わった子どもたちを演じる子役たちのセリフが、どれも全部ゾッとするの。小山内さんが、瑠璃ちゃんに『君に梢の何が分かる!』って怒ると、瑠璃ちゃんが冷めた目で『そういうの、もうやめようよ』って言うところとか。7歳の子が60歳ぐらいのおじさんに言うセリフじゃないじゃん」
──大人びたセリフを言う子役の芝居がうまいから、余計に怖い。
小沢「たぶん、ああいう部分は原作の小説で文字として読むと気にならないのかもしれないけど、実際に子役がセリフとして声に出して言うと、思った以上にホラーっぽくなっちゃうというか。それは、さっきの有村架純ちゃんと目黒蓮君の抱擁シーンと同じで、映像化の難しさの一つだったのかもしれないよね」
──ちなみに小沢さんは、生まれ変わりって信じますか?
小沢「まあ、輪廻転生というものを、信じてるというよりは理解してるって感じかな。映画の中のセリフでも出てくる、『赤ちゃんは自分で親を選んで生まれてくる』っていう考え方は、すごく好きだけどね。世の中では、生まれ変わりを信じてる人と信じてない人、どっちが多いんだろうね」
──たぶん、生まれ変わりを信じてる人っていうのは、自分が死んでもまた生まれ変われるって信じたい人ってことなのかもしれません。
小沢「要するに、死にたくないってことなのかな。今の自分の命を終わりにしたくないっていうか。俺なんかは、死んだらみんなに忘れられたい人だから、今の命が終わったらそれで終わりでいいんだけど。でも、生まれ変わりっていう希望があるからこそ、生きることが楽になるかもしれないからね。それはいろんな宗教の教えとかにもある話だけど。だから、そういうことを信じられるロマンチックな人にこそ向いている作品かもしれないね、これは」
──一つのファンタジーとして楽しんだ方がいいですね。
小沢「そうだね。あくまでもファンタジーとして観るべきだね、この作品は。現実社会に置き換えてリアルに考えたりすると、怖いし、つらくなってくるから。そんな現実ではあり得ない話も、こうやって素敵なファンタジーとして見せられる力が映画にはあるんだよ、ってことを思い出させてくれる作品なのかもしれないね」
──そういう前置きがあった方が、より楽しめる気がします。
小沢「だって、有村架純ちゃんが演じてる最初の瑠璃なんて、言ってみれば、夫がいながら不倫をする女性だし、その不倫相手と会った回数も数回程度なのに、それを生まれ変わっても思い続けるなんてさ、たとえ生まれ変わりが現実に起こるとしても、あり得ないと思っちゃうじゃん。でも、それほど人を好きになれる力みたいなものを映画では描きたかったんだろうし、それを有村架純ちゃんが演じてることで、決して下品にならずに成立させているというか。まさにそこは、彼女の“瑠璃色感”がなせる技だよ」
──そういう意味では、キャスティングの力も大きい作品ですよね。
小沢「うん。小山内役だって、大泉洋さんの持ってるポップさがあったからこそ、悲惨過ぎない感じになってたと思うし。キャストの力で、ちゃんとエンターテインメントとして楽しめる映画になっていた気がするね」
──小沢さんの言う通り、改めて原作小説も読みたくなりました。
小沢「でしょ? ただ、俺はちょっと今は忙しくて時間がないから、生まれ変わってから読むことにするよ(笑)」
──いや、ちゃんと現世のうちに読んでください!
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クレジット(トップ画像):(C)2022「月の満ち欠け」製作委員会