初期衝動で芸人の道を歩んできた僕が、小林聡美さんのコンサートに一流の神髄を見た【#エンタメ視聴体験記/中山功太】
文=中山功太
2002年にピン芸人として初めて舞台に立ってから、20年以上の歳月が流れた。
本来コンビでコントをやりたかった自分にとっては、右も左もわからない状態で、とりあえず始めたピンネタだったが、今でも新ネタを作り続けている。
何年やってもネタの作り方の正解はわからないが、デビュー当時のネタは本当に無茶苦茶だった。
それも、ライブハウスのマスターが「あのバンドは若い頃ホント無茶苦茶だったよ」と笑みをこぼして懐かしむタイプの美談ではなく、普通に無茶苦茶だった。
オーディションでは面白いと思った短文に○を付けたネタ帳を持って舞台に登場し、センターマイクの前で読み上げて「こんなんあります」と言ってはにかんで落ちた。
当時の劇場の支配人に「せめて漫談をやれ」と言われ、必死で作ったネタも「この前、〇■◎▲さんのライブ観に行ってきたんですが、お客さん全員、犬でした」と3分間言い続けようとしたら落ちた。
コントが好きだったので、オーディションでコントをやろうと思い、頑張って話の展開も考えて作ったネタも、自己紹介した後に右手を挙げて「コント!ダンボール一個、路上で株式会社設立!」と言ってすぐに落ちた。
賞レースの予選においても、やり方は変わらなかった。
2002年・夏。
大阪に昔からある由緒ある大会の予選会にて。
目の前には関西の演芸を長きに渡り支えて来られた、推定70代の杖を持った男性作家と、推定60代の立派な着物をお召しになった女性作家。
僕は閉じた扇子を右手に持ち座布団に正座し「落語します!」と言って扇子で己の右ひざを叩き続けた。
喋っている内容は落語でもなんでもなく「漁村の自販機、売り切れてる」みたいな弱めのあるあるネタだ。
羅列したあるあるネタがどんどん弱まっていく中、僕はネタの最後に立ち上がってこう言った。
「すみません、落語やるって嘘ついて、皆さんに見られながらひざ叩くっていうSMやってました。どうも、ありがとうございましたー!」
静寂を誤魔化すかの様なセミの鳴き声。
杖をついて立ち上がる男性作家。
小説を読み始める女性作家。
あの経験は、人は真夏でも冷や汗をかくのだと教えてくれた。
誰にでもある若気の至りと言えばそれまでだが、自分の場合は特に「面白いと思われたい」という初期衝動が強すぎたのだと思う。
そして、良くも悪くも、それは今でも全く変わっていない。
もう一つ変わっていない事がある。
僕のネタは極端に動きが少ない。
運動神経が悪く、動いても状況が伝わらないというのが大きいが、どのネタも四畳半どころか、一畳あれば出来る。
苦手な部分を削ぎ落とした結果、自ずとそういう作りになっていったのだと思う。
表現したい事は全部、言葉で表現している。
その度に、まだまだ三流芸人だと思い知らされる。
ピンネタという本業においても苦手な事をするのは物凄く怖い。
怪談やラップといった他ジャンルに挑む時はそれ以上に怖い。
他の表現者の方もそうなのだろうか?
例えばその方が「一流」であったとしたら?
「小林聡美NIGHT SPECTACLES チャッピー小林と東京ツタンカーメンズ」を視聴して驚いた。
小林聡美さんは本公演が、ご自身にとって初のコンサートだそうだ。
真っ直ぐで嫌味のない歌声、可憐で可愛らしい振り付けやダンス、歌詞を噛み締める様な表情や目線、MCでのバンドメンバーやお客様とのやり取り、どこを取っても最高の歌謡ショーだった。
近年、役者さんが演じる漫才の上手さに驚愕する事が多いが、ひょっとしたら俳優さんこそが最強なのでは?と思い始めている。
何度か俳優さんとお仕事させていただき気付いた事だが、演技が上手い方は、たとえば「バラエティタレント」を本気で演じたら、そのままバラエティタレントとして売れる可能性を秘めていると思う。
上手い俳優さんこそ、言葉の引き出しが多いし、取り出すタイミングも上手い。
言わずもがなだが、小林聡美さんは日本を代表する一流女優さんである。
小林さんの出演した作品がどれもこれも素晴らしいと、本コラムでも一度書かせていただいた。
そして小林さんにとって「他ジャンル」である本公演も、本当に素晴らしい。
本公演で、タイムスリップしてきた「チャッピー小林」を演じ、昭和歌謡を歌う事により、まるでベテランシンガーの様な佇まいをそこに描き出せたのではないかと感じた。
まさに一流だった。
オープニング曲以外は全て昭和歌謡のカバーだが、本当に良い選曲で、最後までずっと楽しくてウキウキする。
ゲストで登場する阿部サダヲさんも無論、一流だ。
登場から、小林聡美さん同様、タイムスリップしてきたオリジナルキャラクターを演じている。
長髪のカツラを被り、熱の入れようが半端ではない。
お二人のデュエットでは手を握り合うシーンもあり、まるでそのまま映画のワンシーンの様だった。
阿部サダヲさんはハモりもこなし、ご自身のバンド「グループ魂」より上手いのでは?と感じた程だった。
バンドメンバーやコーラスの皆様も素晴らしく、そして、ASA-CHANGさんが音楽監督とバンドマスターを務めていた事に驚いた。
あまり詳しくはないが、初期のASA-CHANG&巡礼というユニットは実験的で前衛的なイメージがあったからだ。
そんな方と昭和歌謡の融合はあり得るのかとよぎったが、杞憂に終わった。
昭和歌謡の原曲に忠実で、めちゃくちゃ格好良い。
中盤、小林聡美さんが舞台を離れる時間帯は、ASA-CHANGさんらしい音楽が炸裂しているので、そこも楽しんでいただきたい。
それにしても、音楽性から勝手にASA-CHANGさんを怖い人だと思い込んでいたが、本公演を観る限り実に気さくな方だった。
それもやはり「小林聡美さんだから」なのかなと勝手に思ってしまう。
スクリーンやテレビで観て、こんなに好きになる小林聡美さんなのだから、きっと共演した人はもっと好きになるに違いない。
印象的なMCがあった。
阿部サダヲさんと昔のカラオケ喫茶などの話になった時、阿部さんがふと「当時のサブカルチャーだった」と言った時、小林聡美さんは、本当に悪気なく、あまり興味がなさそうに「サブカルチャーねぇ」と呟いた。
その時、いわゆるサブカル好きの方に愛されている小林聡美さんの、愛される理由がわかった気がした。
サブカル好きは、サブカルぶる人を見抜くのが上手い。
「美空ひばりちゃんが大好き」と言って2曲もカバーした小林聡美さんはきっと、サブカルチャーだとかメインカルチャーだとかに興味がないんだと思う。
良いものは売れていても良い、と言える方だ。
だからこそ嫌味がない。
以前、本コラムで触れた謎が解けたかも知れない。
小林聡美さんが凄いのか、凄い作品に選ばれているのか?
僕は、その両方だと思う。
自然体でいたいと意識して不自然になる人もいる中、本当にナチュラルな方だ。
だからこそ、サブカル志向の監督にも、そうじゃない監督にも愛され、単純に良い作品に選ばれ続けているのだと感じた。
ダブルアンコールを終えた後、楽屋に戻り、カメラに見せる小林聡美さんの表情が滅茶苦茶に可愛い。
あのお顔だけでも一見の価値ありだ。
さて、「面白いと思われたい」という初期衝動が20年以上収まらない僕は、これから何をどうしていこうかと考える。
メインカルチャーとされることが「売れる事」だとしたら難しい。
サブカルチャーとされることが「単独ツアー全国即完」だとしても難しい。
志は高い方が良いが、頂上が見えねば目が眩む。
日和っている訳でも、嘘をついている訳でもなく、
僕はずっとお笑いができるだけで、本当に幸せです。
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おわりに・・・
『インセプション』
クリストファー・ノーラン監督の作品が好きなので視聴した。
2010年の作品だが、今なお新しいどころか、先を行っている。
この映画は難しいと言われる事が多い様だが、確かに難しい。
ただ、難しくて面白い。
鉄の塊みたいな難しい知恵の輪が好きな僕には大好物だった。
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「プラネット・ホーム 明日の暮らし」
即視聴した。
僕は自分の家はゴミ屋敷のくせに、物件やホテルや旅館が偏執的なまでに好きだ。
#1「ツリーホテル 〜スウェーデン〜」に登場するスウェーデンのツリーホテルには、オシャレさと利便性、秘密基地感といった、自分の好きな要素が全て詰まっていた。
幼い頃から秘密基地を作るのがとにかく好きで、大人になってからも廃バスに住もうと真剣に考え、人にも話したが「それはホームレスだ」と言われ取りやめた。
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『リンダ リンダ リンダ』
「この映画メチャクチャいい」と12人くらいから言われたのにまだ観ていなかったので、ようやく観た。
おっしゃる通りメチャクチャ良かった。
個人的には、青春映画、それも特に高校生活を描いた作品を観ると尋常ではないほど胸が締め付けられる。
「戻りたいけど戻れない」「こんな青春送りたかった」など様々な感情が渦巻くが、最近では、ジェットコースターが落ちる瞬間の臓物せり上がり的に 楽しめる様になった。
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