人生を変えるような傑作青春映画を観て、どうにもならない過去を思い出さずにいられない【#エンタメ視聴体験記/中山功太】
文=中山功太
高校時代の恋愛は何一つ上手くいかなかった。
片思いは全て片思いで終わったし、付き合っても全部自分のせいで別れた。
初めて彼女ができたのは高一の夏休みだった。
両親と大喧嘩して家出して、実家から徒歩2分の友達の家に泊まっていた頃に出会った、他校の同学年の子だった。
少しだけ大人びていて、よく笑う、凄く可愛い人だった。
お互いに惹かれ合ってるのはわかっていたのに、彼女に何を聞かれても「ダルい」とか「眠い」とか「誰かシバきたい」とか言ってパンクスを気取った。
当然、健康だし目は冴えてるし誰もシバきたくなかった。
ただ、カッコいいと思われたかった。
結果、誰よりもカッコわるくなった。
友達の後押しもあって、付き合う事になったのに、デートでも徹底してクールを装った。
ゲーセンに行っても、プリクラを撮る時はカメラを睨み付け、クレーンゲームで景品が取れなかったら機械をバンバン叩き、果てには彼女を置いてシューティングゲームをし始め「敵の弾ダルい」と言って即ヤメし、一人で店を出た。
とにかくカッコいいと思われたかった。
そして、もはや変人になった。
付き合って1ヶ月経った頃、公園のベンチで彼女と二人で座っていた。
夕暮れ時、制服の二人、誰もいない公園。
アホの僕でもわかる。
完全にキスのタイミングだった。
緊張とカッコつけから「逆に眠い」とか「あの木ゆらして葉っぱ散らしたい」とか訳のわからない事を口走ってみたが、押し寄せるキスのムードが僕を急かす。
30分経ったか、1時間経ったか、もっと長かったか。
夜が公園を黒く染め、ムードは濃度を増す。
ムードが荒々しく背中を押す。
彼女も瞳を閉じてくれている。
僕は、心臓がのたうち回るのを感じながら、自分の唇を彼女の唇に当てた。
次の瞬間、眼を開けた彼女が、思いもよらぬ台詞を発した。
「キスして」
動揺し、混乱し、数秒後に気付いた。
僕は、自分の唇を彼女の唇に当てたと思ったが、なんと、当たっていなかったのだ。
キスはできていなかった。
アホなりに考えた。
ならあの感覚は静電気か?
静電気なら彼女にも走ったはずでは?
答えは出ないまま「普通に眠いしダルい」と悪態をつき、大嘘あくびをしながら、彼女を駅まで送って帰った。
大嘘あくびのせいか別の原因か、僕の眼は湿っていた。
今となってはわかるが、あれは静電気ではなかった。
僕の唇は「ファーストキスという概念」に触れたのだ。
幼少期から漫画やドラマで見て憧れていた「キスという巨大な圧力」に唇を押し返されたのだ。
何を言ってるのかと思われる方もいるだろうが、あれは確かにそうだった。
僕のファーストキスは失敗に終わった。
あの日、僕はある事に気付いていた。
失敗キスまでの長い時間、ベンチの後ろにあったボロボロのアパートの窓から、初老男性がのぞき見していた事に。
だけど嫌な感じは全くなかった。
なぜなら、その男性の強くて優しい瞳が雄弁に僕に語りかけていたからだ。
「GO BOY」と。
でもごめんなさい、初老男性。
僕は翌日、彼女に滅茶苦茶フラれた。
今回ここまでノスタルジーが極まったのには訳がある。
映画『君の膵臓をたべたい(2017)』を視聴したからだ。
ご覧になった方やタイトルだけ知っているという方も多いと思う。
本作は、住野よる先生のデビュー作にしてベストセラー小説の実写映画化作品である。
小説は未読なのであくまで映画の感想を述べさせていただきたい。
結論から言うと、このコラムの為に観た映画の中で、一番好きかも知れない。
「観て良かった」と言うよりも「観なかったらマズかった」とさえ思った。
人生を少し変えてくれる程の宝物の様な言葉が随所に散りばめられている。
主人公である「僕」は病院で偶然「共病文庫」というタイトルの本を拾う。その本は「僕」のクラスメイトである山内桜良がつづっていた秘密の日記帳で、彼女の余命が膵臓の病気により、もう長くはないことが書かれていた。「僕」はその本の中身を興味本位で覗いたことにより、家族以外で唯一桜良の病気を知る人物となった...と言ったあらすじだ。(Wikipediaより完コピペ)
まず、大人になった「僕」が死んでしまった桜良を回想するところから物語は始まる。
視聴者には犯人がわかっている古畑任三郎スタイルと言えるかも知れない。
ヒロインが死んでしまう映画と言えば、それまでの展開や、葛藤や、はたまた奇跡などで感動の山を作るのが定番だと思う。
そう言った映画にも、名作は沢山ある。
しかし、この映画の終盤の展開は、おそらく大方の予想を遥かに裏切ってくる。
僕は予想だにしなかったし、物語の面白さとして驚いたし、物凄く泣いた。
だが、ただ奇を衒った展開ではなく、とてつもなく大きな意味を持っている。
観る人にシンプルで大切なメッセージを投げかけてくれる。
だからこの作品は、悲しくも爽やかで、観た後に自然と前向きになれる。
主演のお二人の演技も本当に素晴らしい。
浜辺美波さん演じる桜良のひたむきな明るさが、この作品をいわゆる悲劇では無くしてくれている。
桜良が滅茶苦茶に可愛い。
日本中の男子高校生がかつて好きだったクラスメイトの具現化だ。
あだち充先生の漫画から飛び出して来たかの様だ。
そして、桜良のひたむきな明るさが本当にいじらしく、また涙を誘う。
作中ずっと「可愛い」と「悲しい」がシーソーをし続けている。
北村匠海さん演じる「僕」の変化も完全に映画とストーリーに寄り添っている。
そもそもあの美形で見事に陰キャを演じているのが神業だ。
感情をほとんど出さない役柄なだけに、桜良の母親と対面するシーンは、台詞も相まって嗚咽する程泣いた。
作中でも屈指の名シーンだと思う。
WOWOWオンデマンドで視聴した「サウナーーーズ」の彼と同一人物とは思えない。
やっぱり役者さんは凄すぎる。
更に、ラストに流れるMr.Childrenの「himawari」も恐ろしい程ハマっている。
元々ミスチルの中でも特に好きな曲だったが「これぞ主題歌」と言わんばかりに、映画を巻き戻すかの様な完璧な歌詞だった。
個人的に桜井和寿さんの歌詞は「あるあるネタ」としても天才的だと思っている。
タイアップという事もあり、お題「ヒロインが死ぬ映画」に合う歌詞として100点満点だと感じた。
ヒロインがサクラなのにタイトルがヒマワリなのも、あえての遊び心なのではと邪推する。
そして「君の膵臓をたべたい」という、一見ゾンビ映画の邦題の様なタイトルだが、このタイトルがなんと言っても素晴らしい。
別に奇を衒った訳ではないと思うし、衒っていても勝ってるからいい。
「君の膵臓をたべたい」
この言葉が作中で何度も意味を変える。
観終わった後は、このタイトル以外あり得ないと感じるだろう。
僕は今まで、こんなにもプラトニックな映画を観た事がない。
この先も、これ以上は無いのではと思う。
人が人を好きになるという事を、最上級の純度で描き切った傑作だと思う。
もし自分が高校生の頃にこの映画を観ていたら、あの時の僕は上手くいったのだろうか?
カッコつけず、背伸びせず、等身大で、当時のさまざまな出来事と向き合えたのだろうか?
それはやっぱりわからない。
それに、わからなくていい。
時間は決して戻らないのだから、無理な事を考えるのはやめよう。
そんな事より今はとにかく、ダルいし、眠いし、当時の自分をシバきたい。
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おわりに・・・
「井上尚弥出演!エキサイトマッチSP『井上尚弥 vs TJ・ドヘニー』『武居由樹 vs 比嘉大吾』」
この試合を生で観戦していたのだが、会場では実況・解説がなかったので、視聴させていただいた。
僕みたいな素人にはわからない部分が理解できて良かった。
ドヘニー選手も凄いチャンピオンだったと知ったが、生で観た井上尚弥選手のパンチの音だけ、その日のどの選手とも音質が違った。
それまでバリバリ私語をしていた女性客が井上尚弥選手に「もう、やめてあげて~!」と叫んでいたのが印象的だった。
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「ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ」
存じ上げない方だったが「伝説のフランス人素潜りダイバー」という、魅力しかない説明文に惹かれて視聴した。
修行僧のような凄い方だと思うし、家族や周りの人はさぞ困ったとも思うが、ただの変わり者だと思わせない魅力があった。
本気で自然に生きる姿は不自然に映るのだと考えさせられた。
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『ゴーストバスターズ(1984)』
子どもの頃に薄っすら観た記憶があったが、この度、正式に視聴してみた。本当にアホで面白かった。
最高級の褒め言葉として、アホ丸出しだった。
主題歌もめちゃくちゃアホ。
80年代が前面に出過ぎている。
今作のファンの方は怒らないで欲しい。
M-1で立川談志師匠がテツandトモさんを褒めた時の落としてから上げる手法をそのままパクった。
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