文＝酒寄希望

　私には大好きな歌があります。筋肉少女帯というバンドの「香菜、頭をよくしてあげよう」という曲です。

　香菜は頭の良くない女の子です。そんな彼女に恋をした僕が、愛する手段として、自分の知っている映画や本を彼女に教えて賢くしてあげようとするラブソングです。

　僕はとても香菜を愛しています。香菜もそんな僕に無邪気に微笑みます。しかし、曲が進むと、僕が香菜を賢くするのは、自分が彼女の隣にいられなくなったときの為であることがわかります。いつか恋は終わるから、と。

 『香菜、一人ででも生きていけるように』

　初めてこの歌を聞いたときは10代だったこともあり、このような人の愛し方もあるのかと驚きました。

　今回紹介する映画を視聴した時、わたしはこの歌を思い出しました。人を愛するということは、非常に難しい行為だと思ったのです。

 『フィリップ、きみを愛してる！』は、ジム・キャリーとユアン・マクレガーがゲイのカップルを演じる、実話をもとにしたラブストーリーです。実話をもとにした作品は多くありますが、この作品はあまりの展開に、「本当に実話なの？！」と見ている間はずっと衝撃を受け続け、見終わった後も実話をもとにしていることが少し信じられません。

　ジム・キャリー演じる主人公のスティーヴンは、幼い頃に自分が養子だった事実を知り、実の母親を見つけるために警察官になります。しかし、やっと捜しあてた母親に冷たくあしらわれたことで警察官を辞めて妻子とともに心機一転よその土地に移り住みます。

　ところが、彼は新生活を送り出した直後に事故で重傷を負ってしまいます。

スティーヴン「まだ全然生きてない。もう縛られない。嘘はやめる。俺らしく生きるんだ」

　スティーヴンは自分がゲイであることを隠していました。スティーヴンは正直に生きることを決め、家を出て人生を変えます。

　新しく恋人ができたスティーヴンは、愛情をお金で表現するようになり、大金を手に入れるために詐欺を繰り返します。彼はIQ169という高い知性を持っており、その才能を詐欺に発揮するようになったのです。結局、捕まって刑務所に送られることになるのですが、そこでユアン・マクレガー演じるフィリップと運命的な出会いをします。

　刑務所に似つかわしくない愛らしいフィリップの姿にスティーヴンが一目ぼれをしたのです。

　困っていたフィリップをスティーヴンが助け、2人はすぐに打ち解けるのですが、出会った日はちょうどフィリップが別の棟へ移動する日でした。「せっかく仲良くなれたのに…」そう残念がるフィリップにスティーヴンは笑顔で言います。

スティーヴン「きみに会えた俺にはラッキーデーさ。チャンスをくれ」

　ここからのスティーヴンの行動力はすさまじく、別の棟に移って不安でいっぱいのフィリップに受刑者のたすきリレーでチョコレート付きの励ましの手紙を送り、フィリップが一言「会いたい」と手紙に書けば、どんな手を使ったのか同室になる権利を得てフィリップのもとに現れて彼を抱き締めます。フィリップにとってスティーヴンは、いじめられる刑務所の中で突然現れた白馬の王子様です。

　こうしてスティーヴンとフィリップは刑務所の中で恋人同士になります。

　スティーヴンはフィリップから過去の話を聞き、優しくて頭が良くない彼は騙されて利用され続けた人生だったことを知ります。本来ならフィリップは刑務所にいるような人間ではないのです。スティーヴンは怒りますが、フィリップは「でもみんな良い人達だったよ」と笑います。そんな彼を見て、スティーヴンは自分がフィリップを守ろうと強く誓います。

　スティーヴンは2人で幸せに暮らすために詐欺の才能を発揮し、2人で刑務所を出所します。フィリップは自分がどうして刑務所から出られるかもわからないままとても喜びます。

　スティーヴンがフィリップを喜ばせるとき、裏であらゆる悪事を働かせていることを彼はずっと知りません。実は、スティーヴンはフィリップと出会った瞬間から嘘をついているのです。

　2人は一緒に暮らし始め、スティーヴンも「フィリップのためにこれからは真面目に働こう」と心に決めます。しかし、結局お金を使う以外の愛し方がわからないスティーヴンは再び詐欺行為に手を染めていき、フィリップに最悪の裏切りをプレゼントすることになってしまいます。

フィリップ「お金なんていい。ただきみがいたらいい」

　段々、嘘で苦しくなってきたスティーヴンにフィリップが告げた言葉の意味を、スティーヴンは理解できません。彼にとって一番わからないのです。スティーヴンは幼い頃に捨てられた呪縛にずっととらわれています。どうすれば自分は捨てられないのかいつも必死に考えています。ただの自分なんて価値は無いのです。

　元奥さんからも、最初の恋人からも、そしてフィリップからも、ひたすらずっと「スティーヴンがただそばにいてくれたらいい」と言われていました。でも彼には届かないのです。

　自分が愛する相手には、「きみがいてくれるだけでいい」と、抱きしめて心から言えるのに。それが見ていてとても苦しいです。「フィリップ、きみを愛してる」の裏にはたくさんの、「スティーヴン、きみを愛してる」がつまっています。

　この作品を見ていると、愛するという行為は実に一方的だと思います。愛するということは、相手のためなのか自分のためなのかもわからなくなります。両想いなんて実はなく、それぞれ片想いと片想いなのかもしれません。しかし、それでも二つの片想いが寄り添っているのです。

　スティーヴンがフィリップに本当の想いを打ち明けるとき、とんでもない「愛している」のしかけが待っているので、ぜひ視聴して確認していただきたいです。

　最後に、作品の中でスティーヴンは何度も何度も「フィリップ、きみを愛してる」と声に出して気持ちを伝えています。私は照れくさくて「愛してる」という言葉を使ったことがありません。しかし、この作品を見て、人生で一度くらい、「あなたを愛してる」と、声に出して言ってみたくなりました。何故なら、嘘で塗り固められたスティーヴンの中で、「愛している」だけが本当でした。

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おわりに・・・

『デーヴ』
　アメリカ大統領選の頃に、「お、アメリカの大統領の映画がある！」と思って視聴したのですが、こんなに見ていて心が温かくなる映画はありません！ 大統領の物まねをしていた主人公が大統領の影武者をすることになり、あることがきっかけでそのまま大統領本人として過ごさなければいけなくなってしまうとんでもない作品なのですが、この主人公がとても魅力的です！「本当にこんな大統領がいたらその国は安泰だ！」と、見ていて応援したくなる主人公ランキングもしかしたら一位の映画です。主人公が大統領夫人に恋をしてしまうなど、大統領としても、ひとりの男性としても全力で応援したくなる作品です。

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「ワイルドカード～捜査バディは天才詐欺師！？～」
　こちらの作品も天才詐欺師が登場するのですが、こちらはなんと可愛い女性！ ある事件で逮捕された彼女が海上部隊に左遷された元刑事とコンビを組んで事件を解決する詐欺師と元刑事の変わったバディものです！ 最初から全然ウマが合わない2人が見せる掛け合いが面白く、また本気になったときのナイスコンビネーションが見ていてとても格好良いです。第一話の事件から一気に引き込まれ、2人のやりとりから垣間見えるこれから物語全体に関わってくるであろう数々の謎にワクワクが止まりません！ 可愛くてキュートな天才詐欺師に振り回される真面目な元刑事ってコンビとしてすごく良いです！

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『ゴッドファーザー』
　名作として有名な作品です。見たことはなくてもタイトルは知っている人も多いのではないでしょうか？ 私はずっとこの作品が気になっていました。しかし、「ゴッドファーザーと真逆の普通のお母さんの私が見てもこの作品を理解できるのだろうか？」と、見るのをずっと躊躇っていました。今回、視聴しました。すごく面白いです！ ゴッドファーザーは普通のお母さんが見てもとても面白いです！ ゴッドファーザーって勝手に何もしなくてもいいくらいの大御所かと思っていたら超大変！ 娘の結婚式の日もいろんな人が相談にきて大変なゴッドファーザー！ ゴッドファーザー2と3があるのですべて見てからしっかり感想を書きたいです。私のように見ることを戸惑っている人にお伝えしたい！ とにかく面白いです！

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