関西芸人の僕にとって異色の存在、とんねるずの魅力と凄みを改めて知る【#エンタメ視聴体験記/中山功太】
文=中山功太
同世代の方ならわかっていただけると思うが、多感な時期にテレビを席巻していたのは、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、とんねるずの三組だった。
僕は昭和55年生まれで、幼少期に吉本新喜劇に触れダウンタウンに憧れて吉本に入った関西芸人だ。となると、他の芸人は好きじゃないのではないかと思われる事が多々あるが、全くそんな事はない。
当時バラエティ番組を牛耳っていた三組に共通する事といえば、冠番組でスタジオコントをしていた点だと思う。
ダウンタウンとウッチャンナンチャンは「夢で逢えたら」で共演していた事もあるし、しっかりとした上に奇抜な設定がありキャラクターも強いという点で、当時は二組に似た雰囲気を感じていた。
僕の中では、とんねるずだけが異色だった。
自分がとんねるずを語るなんておこがましいとは承知の上で、とんねるずの何が凄いかを綴らせていただく。
まず、お2人とも体育会系だという事。
石橋貴明さんは帝京高校の野球部出身、木梨憲武さんは同じく帝京高校のサッカー部出身だ。
言わずと知れた、スポーツの名門校の同級生である。
幼少期から運動音痴がコンプレックスだった自分にとって、体育会系の人なんて面白くないと思っていた。
面白かったら困ると思っていた。
せめてお笑いだけは自分達みたいな青春弱者の救命ボートであって欲しかった。
それを面白さでねじ伏せたのが、とんねるずだと思う。
高校の人気者がそのまま日本の人気者になったという事実は、僕にとっては絶望でしかなかった。
なのに、笑わせられる。
楽しまされる。
本当に稀有な存在だと思う。
そして、完全にメーター振り切っている点。
芸人を志した頃に、自分が典型的なA型の性格である事に悩んでいた。
神経質で几帳面で気が弱くて周囲の目を気にする。
そんな自分に芸人なんて出来る訳がないと諦めかけていた。
血液型による性格診断なんて日本でしか流行っていないとも知っていたが、面白い芸人さんや売れている芸人さんはB型が多いと感じていて、自分は向いていないと言い聞かせていた。
矛盾するが、その辺りも本当にA型だと思う。
そんな折、ネットで見た情報に驚愕した。
「石橋貴明 血液型 A型」
そんな馬鹿なと思った。
緊張している所など見た事がない、カメラやセットも平気で壊す、女性アイドルの顔をズバズバ野球選手で例えるあの石橋貴明さんがA型とは。
大袈裟ではなく、血液型なんて関係ないと思えたし、気にせず芸人になろうと思えた。
最近になって、石橋貴明さんが収録後、出演者一人一人に挨拶をしてからスタジオを後にしていたというエピソードが広まったが、カメラが回っている最中、つまり仕事中はリミッターを解除しているのだと思う。
そして木梨憲武さん(O型)。
よく観ると分かるが、木梨憲武さんは、時として石橋貴明さん以上に無茶苦茶をする。
普通コンビならブレーキをかける所だが、共に限界までふざける。
とんねるずには明確にボケとツッコミという役割がない。
ただただ楽しいまま、アクセルベタ踏みで、行くところまで行く。
観ていてワクワクしない訳がない。
さらに、現在までずっと歌手として活動しているという事実。
先日、とんねるずとして29年ぶりの武道館ライブを敢行したが、とんねるずはデビューからずっと、歌謡活動を続けている。
「ガラガラヘビがやってくる」や「がじゃいも」の様なコミカルな歌もあるが「情けねえ」や「一番偉い人へ」の様なシリアスな歌も多い。
とんねるずに関して「芸人がマジ歌なんて」と思った事が一回もない。
周りからそういう意見も聞いた事がない。
冠番組でちゃんとコントをやったり、身体を張ったコーナーをやったりして軸足をお笑いに置いているから、というのも大きいだろうが、とんねるずが歌手活動をして違和感がない理由は、もっと単純明快だと思う。
それは、スターだからだ。
数十年間TVに出続けてきた、芸能界きってのスターだからだ。
若い頃に一度だけ、お仕事で木梨憲武さんにお会いした事があるが、あまりのオーラに後退りしたぐらいだ。
「頑張ってね」と優しいお言葉を掛けられたが、返事も出来ない程、むせかえる色気があった。
とんねるずとスタッフさんは、お笑いだけじゃなく、歌だけじゃなく、次々に新しい仕掛けを作り成功させて、昭和・平成・令和を駆け抜けた。
もうこんなスターは出てこないんじゃないかと思っている。
他にも、裏方さんとユニット組んでデビューした「野猿」が斬新過ぎるとか、首を手刀で突いて「ズシッ」ていうノリ好きすぎるとか、「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」に代表される、発泡スチロールが擦れる音が面白すぎるなど、挙げればキリがないが、とんねるずは、やっぱり、本当に凄い。
今回視聴した作品は、とんねるずの木梨憲武さんのWOWOWオリジナル作品「木に梨はなる ~みんなのアート~」だ。
かつて放送された「木に梨はなる ~頭の中の大宇宙~」の第2弾である。
#1で、木梨さんは障がい者のアートを支援する「やまなみ工房」を訪れる。
ここでの木梨さんは物凄く自然体で、障がい者の方と接する時も気遣いに過不足がない。
「普通」に接する事が「普通」なんだと気付かせてくれる。
工房に並べられた作品はどれも素晴らしく、アーティスト達の創作意欲も鬼気迫るものがある。
なるほど、こういう番組なのか、と思った。
木梨さんが工房の方々と触れ合い、共に作品を作り上げていく、ドキュメンタリーなのだと。
それはそれで興味があるし、オフの木梨さんを観られるのは貴重だと感じながら、#2を再生した。
バリバリのバラエティ番組だった。
滅茶苦茶お笑いだった。
カンニング竹山さんがMCで登場し、アートとバラエティを見事に融合させている。
#2はサッカーとアートの融合、#3はお笑いとアートの融合、#4はダンスとアートの融合、#5は卓球とアートの融合、#6はアイドルとアートの融合。
そして各回にそれぞれ、罰ゲームとアートの融合というコーナーが挟まる。
アホみたいな感想だが、「みなさんのおかげでした」が帰って来たと思った。
面白くて、嬉しかった。
もっとアホみたいな感想だが、石橋貴明さんも出演している様に見えた。
絶対にそんな訳ないのに。
#1で木梨さんは、最終的に行われる2日間のライブイベント「木に梨はなる 真夏の大収穫祭2024 ~みんなのアートミュージック~」に向けて「みんなが面白いとか目立ちたいとかじゃない風にやってもらえたら」という主旨の事をおっしゃっていたが、蓋を開ければ違った。
やはり木梨憲武さんはお笑いがやりたかったし、出演者の芸人さんにお笑いをやって欲しかったんだ、と思った。
無性に嬉しかった。
最終回である#6で、再び障がい者施設の「やまなみ工房」をスタッフさんが訪れる。
木梨さんからの「東京に遊びに来てね☆」と書かれた招待状を手渡す為にだ。
ライブイベントへの出演依頼だった。
この二日間のライブは凄いものになるという確信を持たせて、番組は終わる。
ここまで完璧な告知は観た事がない。
ライブイベント本編も、是非皆様の目と耳に焼き付けて欲しい。
とんねるずが好きな方も、アートが好きな方も、音楽が好きな方も、絶対に楽しめると断言出来る。
それにしても、とんねるずが観たくて仕方がなくなってきた。
もう、DVDを借りに行こう。
幼い頃に笑いすぎて失禁した、「仮面ノリダー」で石橋貴明さんが歩いてる手すりから落ちて脇を打つシーンがどうしても観たい。
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おわりに・・・
『マディソン郡の橋』
クリント・イーストウッド監督・出演による大ヒット作品。
公開時には雑誌などで「不倫を助長しかねない」などと書かれていた覚えがあるが、改めて観るとそんな単純な話ではなかった。
あくまでフィクションとして、素敵な作品だった。
短い期間で男女共に葛藤し、人生を懸けて苦悩している。
そもそも不倫の映画が不倫を助長するなら、ギャング映画を観た人はギャングになるのかという話だ。
映画マニアの方に、クリント・イーストウッド監督は、白熱するシーンで俳優がセリフを言い淀んでもそのまま使うと聞いた事がある。
人は白熱していたら言い淀むだろうという持論と、単純な時短だそうだ。
どれぐらい噛んでるのか英語を学んででも知りたい。
「風味巡礼3 ~海の奇跡を味わう~」
本場中国の中華料理を紹介するドキュメンタリーだが、この作品はそれだけではない。
食材をとる人、プロアマ問わず調理する人、それを食べる人、その全てに密着している。
中国に住む人々の食と生活を見事に映像化している。
そして、料理が美味そうすぎる。
何にでも狂った様にブラックペッパーかける自分を恥じた。
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『ヘレディタリー/継承』
『ミッドサマー』のアリ・アスター監督によるホラー作品。
怖い怖いと噂には聞いていたが、怖すぎる。
ホラー映画なんか作り物だから平気だと言う方にこそ観ていただきたい。
平気じゃなくなるはずだ。
出演者の顔が全員とにかく良い。
ホクロの位置やそばかすの量がめちゃくちゃリアルで、結果的に日常からの恐怖を増幅させている。
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