好きな本の魅力を上手に伝えたいわたしが、ドラマを通じて“人生の一冊”と出会ってしまったこと【#エンタメ視聴体験記/ぼる塾・酒寄希望】
文=酒寄希望
聞いてください。わたしには悩みがあります。それは、本を人に薦めるとき、薦めれば薦めるほどに本が面白くなさそうになってしまうことです。
わたしは読書が好きで、面白い本に出会ったとき、周りの人に読んでもらいたいと思います。
わたし「この本はきっとあの人も好き!」
そして、その人に本を紹介します。しかし、自分の頭の中では本がくれた素晴らしい世界が広がっているのに、そのままわたしの口から発することができないのです。
わたし「すごく面白いの! ネタばれになるから言えないけど、うわ~ってなるの! とにかく読んで! 読んだらわかるから!」
最終的に本を渡す力技でなんとかしてきました。さくらももこさんの「たいのおかしら」は多分もう6冊くらい買っています。
わたし「本の魅力を殺さずにお薦めできるようになりたい!」
そんなわたしにぴったりなドラマに出会いました。
「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年のこと」
このドラマは、書店で店長を務める主人公の花田菜々子が、夫との離婚が決まったことをきっかけに、出会い系サイトで出会った人に合いそうな本を薦めまくるお話です。まさにタイトル通りです。
わたしは正直、出会い系サイトという言葉に偏見をもっていました。わたし(現在36歳)がその言葉を知った当時は、出会い系サイトというと大人の淫靡な雰囲気が満ちていたのです。ですから、視聴する前はこのドラマのタイトルにひっかかりました。
わたし「もしかして離婚が決まった主人公が自暴自棄になる話?」
しかし、全く違います! もしも、【出会い系サイト】という言葉にマイナスイメージを感じた人がいたら、「誤解だョ! 全員集合」と、わたしが叫ぶのでテレビの前に集合してください!
菜々子が利用した【出会い系サイトAU×AU】は、30分間初対面の人同士でお話しをするという非常にシンプルなもので、出会いは異性同士と限定されていません。プロフィールを見て興味を持ったら異性でも同性でもメッセージを送り、実際に会い、30分間だけお話しをするのです。
菜々子は、プロフィールに「今のあなたにぴったりの本をお薦めさせていただきます」と一言書き、男女問わず、出会った人にぴったりの本を毎回紹介していきます。菜々子はお店でもPOPの女王と呼ばれるほど、本を薦めるのが生きがいなのです。
わたしがこのドラマを見始めた頃は、実際に存在する本が沢山登場することが楽しくてなんとなく見ていました。しかし、ある瞬間、わたしとこの作品の関係性ががらりと変わりました。それは、菜々子が自作の詩を書くのが趣味の青年と出会った回でした。
菜々子「茨木のり子っていう詩人はご存じですか? メッセージ性が強くて、ダイレクトに心に響く詩を書く人です。ピュアさと凜々しさが共存していて、熱く、とてもわたしは感動します」
菜々子「『ぱさぱさに乾いてゆく心を ひとのせいにはするな みずから水やりを怠っておいて』」
菜々子「わたしの一番好きな部分が、『初心消えかかるのを 暮しのせいにはするな そもそもが ひよわな志にすぎなかった』 …心にくる~!!」
青年「ああ、なんか、刺さるかも」
菜々子「本当ですか? 今のは、『自分の感受性くらい』っていう詩の一部なんですけど、なんかすごく大事なことを次から次へとバンバン殴ってくる感じです」
菜々子「『自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ』」
わたしは茨木のり子の【おんなのことば】という本に、まるで自分がぴったりの一冊を教えてもらったのではないかというくらいに射抜かれました。
茨木のり子にわたしの心をぶん殴ってほしい。わたしの心をぶん殴る相手は、茨木のり子が良い。
ドラマを見終わってすぐに買いました。繰り返し読みました。菜々子に、ドラマの中の相手のようにメッセージを送り、「読みました!他にも『子供時代』って詩がたまらなく良かったです! それから、『一人は賑やか』も!」と語りたくなりました。
わたし「自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ」
わたしはこの作品を通じて、自分の人生の一冊になる本に出会ってしまったのです。
このドラマは毎回、菜々子の一万冊を超えるデータの中から、実際に存在する本が登場します。彼女が本を薦める相手には、全く本を読まない人、薦める本全部に「もう読んでいる」と言う人、自称超能力者など、他にも様々な個性溢れる人たちがいます。紹介する本のジャンルは多岐にわたり、漫画も登場します。それはすなわち、見ているこちら側も読んでみたいと思う出会いがあるのです。会社の上司に薦めるときなんて全力で28冊も紹介しているのです!
わたし「保健室の先生が悪霊を退治する話?読んでみたい!」
そして、菜々子が本を薦めるとき、ただ本を薦めるのではなく、相手のことを一生懸命考えて大切に思っています。その思いが込められた本は、このドラマをより深みのあるものにしています。彼女と離婚寸前の夫との久しぶりの会話で、わたしは苦しいほどにそれを感じました。
夫「薦められていた本読んだよ。やばいね。やっぱ江國香織は」
菜々子「でしょ」
夫「登場人物誰に感情移入しても全員悲しい。江國さんは悲しさの価値みたいのを信じてるんだろうね。だから読んでどれだけ悲しくても絶望は感じない」
菜々子「ほんとそう。わたしもそう思う」
江國香織の【落下する夕方】を読んで、こんな会話ができる夫婦がどうして駄目になってしまったのだろう。
そして、夫とそんな会話をした日に出会っていた、恋愛の出会い目的で始めたわけではなかったのに気になってしまう遠藤さんに薦めた一冊は藤子・F・不二雄の【モジャ公】。
わたし「きゃー! 何それ何それ! あれじゃん!!(語彙力がない)」
このとき画面に向かって叫んでいました。本好きは静かに思われるかもしれませんが、本が関わると結構うるさくなってしまいます。
夫との離婚危機、芽生えた転職の気持ち、遠藤さんとの関係など、ひとりの女性の人生が、【AU×AU】での沢山の出会いに助けられながら進んでいき、最終話では、今まで菜々子が出会った人たちに本を薦めまくったことが、「こう活きてくるのかー!」と感動します。
菜々子「世界には一億冊以上の本がある、つまり、あなたの今にぴったりな本は必ずこの世に存在する。薦める理由?そんなものは本人にもわからない。ほんの一ミリだけ、本が世界を救うと信じているのかもしれない」
最終回まで見終わったので、ずっと読むのを我慢していた花田菜々子さんが書かれた【出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと】の原作本を買って読もうと思います。このドラマは実話をもとにしているのです。花田菜々子さん、わたしは本に救われました。
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おわりに・・・
『カサ・ボニータ ミ・アモール!』
「サウスパーク」の制作者であるトレイ・パーカーとマット・ストーンが、「サウスパーク」のエピソードに登場させるほどに彼らが好きなカーサ・ボニータ(まるでディズニーランドのようなメキシコレストラン)が再オープンしないかもしれないと知り、店を買い取って再生に乗り出すドキュメンタリーです。サウスパーク好きは勿論、見たことがない、または苦手な人にも全力でお薦めしたい! なんとなく理解していた気になっていた事柄の全ての見方が変わります! 「サウスパーク」もその内容に毎回驚かされますが、このドキュメンタリーもこちらが想像する範囲を超える内容でした。最後の最後まで!!きます!!
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『ソウルメイト/七月と安生(チーユエとアンシェン)』
韓国のリメイク版は視聴したことがあるのですが、すみません! 本家のこちらを知りませんでした! 今わたしが「このあと絶対に視聴する作品ランキング」第一位です! 韓国リメイク版がとにかく良かったので、こちらも素晴らしい予感がします。この作品は二人の幼馴染の女性の友情を描いた物語です。自分はこの人に出会う為に生まれてきたと思える存在は、恋愛だけでなく、友情でも起こりえると思います。わたしがこの作品を視聴するとき、ある大切なひとりの女性を思い浮かべながら見ると思います。ソウルメイトは大切な友人が頭に思い浮かぶ作品なのです。友情は美しいと心から言える気がします。
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『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』
この映画は世界中の食いしん坊に見てほしいです! ケンカをして店を辞めてしまった一流シェフが、フードトラックでキューバサンドイッチを売りながら仲間とともに旅をするのですが、グルメとコメディの融合は本当に人を幸せにすると思います。ケンカっ早い主人公に「なんだこの人!」と、最初は思ってしまい、正直苦手でした。しかし、旅を続けるうちに変化していく彼に途中から大声でエールを送りたくなります。一緒に旅をする息子との関係にも胸が熱くなります。一緒に旅する仲間もみんな魅力的です。そしてラストはこう思います。うちの近所にもこのフードトラックが来てほしい! キューバサンド食べたい!
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