見出し画像

クリストファー・ノーラン監督のSF超大作と宇宙の真理を追及していた博士の話【#エンタメ視聴体験記/中山功太】

 お笑い芸人の中山功太さんが、WOWOWの多岐にわたるジャンルの中から、今見たい作品を見て“視聴体験”を綴る、読んで楽しい新感覚のコラム連載企画「#エンタメ視聴体験記 ~中山功太 meets WOWOW~」
 今回は、クリストファー・ノーラン監督が壮大なスケールとビジョンで描くSF超大作インターステラーを見た体験を中山さんならではの視点で綴ります。

文=中山功太

 小学校低学年の頃から、近所に博士が住んでいると聞かされていた。

 聞かされていただけで、実際にお会いした事はないが、住んでいたのは確かだそうだ。
 博士と言っても漫画の発明家の様な、低身長サイドパーマ白髪ではなかったと思う。
 ビーカーからフラスコに薬品を入れて爆発する事故などもなかった。
 グルグルメガネのあたふたノッポ助手もいなかった。

 おそらく大学院で博士号を取った元大学教授か何かだったはずだ。
 博士は長年に渡り、自宅に籠り宇宙の研究をしていた。
 僕が中学校に進学した頃、博士はついに宇宙について重大な結論を出した。
 そのニュースは我が家にも舞い込んできた。
 博士は言ったそうだ。

「宇宙は無い」と。

 それを聞いた時、僕は背中を床に付けて、文字通りひっくり返るぐらい笑った。
 腹を抱えてキキキキ笑いながら学校や近所で言いふらしていると、博士と親交があった、友達のお母さんに泣くほど叱られた。

 その方の話によると、博士はある頃を境に宇宙の研究を止め、哲学にたどり着いたそうだ。
 そして導き出した答えが「宇宙は無い」だったというのだ。
 数年後にその方にもう一度詳しく教えてもらったのだが、博士は
「宇宙は無いのだから、宇宙の研究は意味がないが、宇宙が無い事がわかった事に意味がある」
とおっしゃっていたそうだ。

 そして、もう一つ教えてもらった。
 博士の奥様は、博士の研究に愛想を尽かし、子どもを連れて家を出たのだ、と。

 ほぼ、初期のBUMP OF CHICKENの歌詞の世界観だが、実話だそうだ。
 「宇宙は無い」と聞いた時は、背中を床に付けて笑ったが、これを聞いた時は、毛布にくるまって膝を抱えて震え上がった。

 僕が昔から宇宙に恐怖心を抱いているのは、この原体験が影響しているのは間違いない。
 そのせいなのかは定かではないが、基本的にSF映画は嫌いだ。

ⓒ Warner Bros. Entertainment Inc.

 今回視聴したインターステラーは宇宙の映画である。

 あの鬼才、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』を取り上げて「宇宙の映画である」とは、我ながらアホ丸出しだ。

 地球を離れ新たな居住可能惑星探索を行うため別の銀河系へと有人惑星間航行(インターステラー)する宇宙飛行士たちを描いた、SF超大作であり、紛れもなく傑作である。

 クリストファー・ノーラン監督のSF作品と言えば『インセプション』も有名だが、本作はあれほど難しくはない。
 『インセプション』も大好きな作品だが、僕はおそらくあの映画の半分も理解していない。

 それでも面白い事に間違いはないのだが、もしSFに難解なイメージを持っている方がいるとすれば、SF嫌いの僕が、インターステラーは大丈夫だと胸を張ってお薦めできる。

 「地球に住めなくなり、住める星を探すが、さあ見つかるのか?」というお話だ。
 個人的には、同じ監督の『ダークナイト』よりとっつきやすい極上の娯楽映画だと思う。

ⓒ Warner Bros. Entertainment Inc.

 この作品はわかりやすくテーマが「愛」だ。

 違うとは言わせない。
 序盤から隠す素振りもなく全面に押し出している。

 家族愛、恋愛、失いゆく地球への愛、まだ見ぬ惑星への一縷の望みにも似た愛、そこで残すべき子孫たちへの愛。
 様々な愛で満ち溢れている。
 時として形の違う愛は合致せず、摩擦を起こす。
 だが、信じた者同士の愛は、針の穴を抜ける様な奇跡をも起こす。

 後半の非常に重要なシーンは、もはや愛そのものでしかない。
 愛を完璧に映像化している。

 見た事のない美しくも空虚な空間で、見事に伏線が回収されていく。
 主人公のクーパーは、作中何度も葛藤するが、一貫して信念がある。
 自分のパイロットとしての腕よりも、家族への愛と、家族からの愛を信じている。
 クーパーが浮遊しながら地に足をつけて行う地味な作業は、執念に満ちた神聖な儀式にも見えた。

 メッセージとして非常に強固であり、乱暴な言い方をすれば、SFとかそんな事はどうでも良くなる。
 単純に感情がボコボコに揺さぶられる。
 これほど感動的なシーンは観たことがない。

 もしこの映画が公開前で、僕が変なスポーツ新聞の記者なら「やったぜノーラン!2時間50分映画!〜愛は宇宙を救う〜」という見出しを付けたかった。

 ラストシーンも希望に満ち溢れている。
 「そう言えばあれどうなった?」を全く取りこぼさずに幕を閉じる。
 最高としか言いようがない。

 繰り返しになるが、SF作品に耐性がない方にも、小難しい話が苦手な方にも、映画をあまり観た事がないお子さまにも、安心してお薦めできる作品である。
 劇場版「ドラえもん」を観るように気軽に観ていただきたい。
 気軽に観ていただく事を、強烈にお勧めしたい。

ⓒ Warner Bros. Entertainment Inc.

 かつて僕の家の近所に住んでいた博士。
 彼は宇宙に取り憑かれていたのだろうか?
 研究に没頭し家族を失った哀れな男なのだろうか?
 「宇宙は無い」と断言し「無いとわかった事に意味がある」と嘯いた変わり者なのだろうか?

 僕はそうは思わない。

 人生を賭して何かを追求する事は、新惑星を見つけるほど難しいと知っている。

 彼は宇宙に愛を注ぎ続けた格好良い人だ。

『インターステラー』を今すぐ視聴するならコチラ!

おわりに・・・

 今回取り上げることはありませんでしたが、中山さんが気になったコンテンツを中山さんならではの視点でご紹介します。

『青春MT~Re:メンバーアゲイン~』
 
韓国の人気ドラマの出演者たちがチームに分かれてミッションにチャレンジするバラエティ番組。
 「梨泰院クラス」が全てのドラマの中で一番好きなので即視聴した。
 他のチームのドラマも観たいと思った。
 「役者さんも普段は自然なんだなあ」と、一応芸能の最果てにいる者らしからぬ感情が飛び出した。

「青春MT~Re:メンバーアゲイン~」を今すぐ視聴するならコチラ!

『ボディガード牙』
 
千葉真一主演、梶原一騎原作の劇画の実写映画化。
 僕が生まれる前の作品で、千葉真一さんが稀代のアクションスターだった等は情報でしか知らなかったが、いざ観ると凄まじかった。
 アクションはもちろんの事、男前すぎる。女優さんも美人すぎる。これが「銀幕のスター」か、と痛感した。
 なによりタイトルが素晴らしい。「ボディガード」で「牙」
 弱い訳がない。

『ボディガード牙』を今すぐ視聴するならコチラ!

『暮らしをたのしむ、料理道具』
  普通の料理番組とは違い、一流の料理人が、一流の調理器具を使って料理をする。
 美味そうすぎる料理と、使った調理器具を作る工程も見せてくれる。
 料理人×職人×制作陣。
 人が丸見えでワクワクする。
 40過ぎてやっと気付いたが、一番大切なのは、最終、結局は人だ。

「暮らしをたのしむ、料理道具」を今すぐ視聴するならコチラ!

合わせて読みたい! お笑い芸人のぼる塾・酒寄希望さんによる「#エンタメ視聴体験記 ~酒寄希望 meets WOWOW~」のコラムはこちら

▼WOWOW公式noteでは、皆さんの新しい発見や作品との出会いにつながる情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください。

トップ画像(クレジット)/『インターステラー』:ⓒ Warner Bros. Entertainment Inc.