【ネタバレありッ!!】「連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―」の特殊メイク&ヘアメイクが語る! 原作の再現度を高めるためのこだわりとは?【ゴールデンカムイ制作スタッフインタビュー②/特殊メイク&ヘアメイク編】
取材・文=柳田留美
【特殊メイク/by中田彰輝】リアリティーを重視しつつ原作のイメージを崩さないギリギリを攻める
―「ゴールデンカムイ」の特殊メイクを担当するにあたり、どんなことを感じましたか?
正直、プレッシャーを感じながらのスタートでした(笑)。2次元の絵を3次元の人間に置き換える作業は、どの実写化作品においても難しいんです。ただ、「ゴールデンカムイ」に関しては、現実離れしたキャラクターがいるわけではなく、実在する人間に近いキャラクターが多かったので、その点はとてもやりやすくて。キャラクターの背景も原作の中にしっかりと描かれているので、なぜこの人物は顔にけがを負ったのかなど、視聴者の方々が想像しやすいように一つ一つ意味を考えて、納得できるデザインを作っていきました。
映画やドラマは総合芸術なので、特殊メイクだけではなく通常のヘアメイクや衣装、俳優さんの役作りが一体となってキャラクターが出来上がります。最初の話し合いが肝心となるのですが、「ゴールデンカムイ」の現場はスタッフ編成がきちんと整っている上に、準備期間もきちんと設けられていたのがありがたかったです。
―特殊メイクと通常のヘアメイクとの違いを教えてください。
俳優さんを実年齢以上に老けさせたり、髪をそらずに丸刈り頭に見せたり、けがや傷を表現したりするとき、人工皮膚のようなものを作って、それを俳優さんの顔や体に貼り付けてなじませるのが特殊メイクの仕事です。たとえば、ハイライトやシャドウで陰影を付けて俳優さんを老けさせるなら通常のメイクの範囲ですが、シワやたるみ、深い毛穴などを加工した人工皮膚を足す場合は特殊メイクが担当します。特殊メイクは、通常のメイクと特殊造形の中間のような位置付けですね。
また、「血」の表現に関しては、ケースバイケースでさまざまなチームが担当することがあります。例えば、俳優さんの衣装についた血は衣装さんが用意しますし、鼻血の場合は特殊メイクが担当する時もあればヘアメイクが担当するときもあります。銃で撃たれて出る血は特殊メイクだけど、吹き出る血はまた違うチームが作る…など、幾つものチームで役割分担しています。
―特殊メイクはどのような工程で進めるのでしょうか?
人によって鼻の高さも目の大きさも違うので、まずは俳優さんの顔の型を石膏で取らせてもらうことから始めます。次に、特殊メイクに使うパーツの原型を粘土で厚みなどを調整しながら作っていきます。例えば、杉元や鶴見、尾形の顔の傷や、牛山の額の四角いコブ、餃子耳、二階堂の眉骨など。さらに、その原型を使って型を取ります。続いて出来上がった型から粘土を取り外し、空洞部分にシリコンゴムなど特殊な素材を流し込んで成形します。杉元や尾形の顔にある古傷などは、医療用の接着剤に粉を混ぜてペースト状にし、それを凍らせて固めたものに色を付け、パーツが完成となります。それらのパーツを俳優さんの顔や体に貼り付け、なじませるところまでが特殊メイクの仕事です。
準備からテスト、調整から本番を含めると、かなり時間がかかる作業になります。しかも、作ったパーツは使い回しができないので量産が必要なんです。撮影のたびに新しいものを使うので、出番が多い杉元は100セット以上、鶴見の傷も50セット以上は作りました。
―特殊メイクにおいて気を付けていることはありますか?
ご覧になっていただく皆さまに作品に集中していただけるように、リアリティーを大切にしながら、原作のイメージを崩さないギリギリのラインを攻めています。たとえば傷ですが、実在しても違和感を感じないレベルを追求しています。切り口と血のりで「傷」と認識してもらうのは簡単ですが、皮膚には表皮、真皮、脂肪層という構造があって、その下に筋肉があります。医学書なども読んで最低限の知識を頭に入れた上で、よりリアルな表現を目指しています。
―「ゴールデンカムイ」の特殊メイクで特に大変だったのは?
鶴見が大変でしたね。人気の高いキャラクターですし、顔の傷の形状がとても独特なので。爆発でできた傷ということで、やけどや切り傷が治癒したときの状態を想像しながら作っていきました。最初は原作のように角張ったデザインを試したのですが、結果的にちょっと生々しくなり過ぎてしまって。もう少し控えめに作り直してみましたが、プロデューサーから、「幅が広過ぎたり長過ぎたりしているところがある」とご指摘を受け、さらに、鶴見を演じる玉木宏さんの顔に合うよう新しいデザインを考え、そこでようやくOKが出ました。完成までに1カ月半はかかりましたね。
牛山の額のコブも大変でした。「あれは一体何なのか!?」と、自分でも答えが分からないまま、あの形状を本物の人間の皮膚に置き換えた想定で作りました。とはいえ、あんな四角いコブは普通の人間にはないのでいろいろ悩みましたね…。牛山役の勝矢さんの額の広さに合わせて、どのくらいの大きさ、厚みがいいか試行錯誤しながら原型を作っていきました。最初はもう少し角がはっきりしていたんですが、最終的には少し角を丸くして、やや抑え気味に仕上げました。
―第8話で鈴川が犬童に扮装する特殊メイクも苦労されたのでは?
はい(笑)。特殊メイクだけではどうしても成立しない部分があって…。そのあたりは監督にうまく演出でつなげていただき、ヘアメイクの酒井さんたちにも助けてもらいました。
犬童については、原作の通り眉間のシワと広い額をしっかり表現したかったので、特殊メイクで眉骨を作って眉毛をつぶし、シワをしっかり表現しました。「ゴールデンカムイ」って、なぜか眉毛のないキャラクターが多いんですよね(笑)。ちなみに二階堂も同様で、特殊メイクで眉毛をつぶして眉間にシワを足しています。
―実は力を入れた特殊メイクはありますか?
第2話に登場した、辺見が被害者の背中に入れた「眼」という文字の傷ですね。背中全体を覆うくらいの大きさの人工皮膚になだらかな膨らみを持たせ、えぐった傷口部分に白や黄色の下地を塗り、赤い血の色を重ねて着色。それを俳優さんの体に貼ってなじませています。人工皮膚の表面に柑橘類の皮のブツブツをゴムに移したスタンプをペタペタと押し、毛穴の質感を再現。血のりの量を調整しつつリアルさを追求しました。
余談ですが、実は、僕は本物の傷や出血を見るのは苦手です。へたに知識があるだけに、本物を見ると実際の痛みを想像し過ぎてしまうのかもしれません(笑)。
―最後に、「ゴールデンカムイ」の特殊メイクを通して感じたこと、注目してほしいポイントを教えてください!
「ゴールデンカムイ」はそれぞれのキャラクターが個性的ですし、スタッフの意気込みも相当なものだったので、みんなで意見を出し合いながら作っていく過程がとにかく楽しかったです。実際に俳優さんが衣装を着て特殊メイク・ヘアメイクをしてセットの上に立った姿を見たときには、「本物じゃん!」と思えるくらいの手応えがありました。なかなかここまでの達成感は得られないので、実写化作品の魅力をあらためて再認識しました。玉木さんから「特殊メイクがすごいから、それに追い付くよう頑張ります」と言っていただけたのも本当にうれしかったですね。
とはいえ、特殊メイクは作品の世界観に没入してもらうテクニックの一つです。なので、「あれ? これは特殊メイク?」というように気付きそうで気付かない程度に見ていただけたらうれしいです。
【ヘアメイクデザイン/by 酒井啓介】「リアルっぽい」と感じてほしい―。ファンタジーとリアリティーのバランスを追求したメイクテクニック
―ヘアメイクのデザインを固めていく過程を教えてください。
まずは、原作のカラーイラストやアニメを見て研究し、原作のキャラクターに似せるためには、どんなメイクが必要か、イメージを膨らませていきます。このときに、俳優さんの顔写真の上にデジタルで絵を描いていき、シミュレーションをすることもあります。そして、衣装合わせのときに、実際に俳優さんにメイクをしながらデザインを固めていくというのが基本の流れです。
―酒井さんは「ゴールデンカムイ」のヘアメイクデザインを担当されるにあたり、どんなことを大切にされましたか?
ヘアメイクは作品の世界観やキャラクターを作り込む上で、完成度を大きく左右する部分なので、ファンタジーとリアリティーのバランスをどこまで突き詰められるか、そこを一番意識しました。
また、今回は全キャラクター共通で肌に『粗さ』を加え、生身の人間に近い“皮膚感”を演出しています。特に、二〇三高地のシーンでは、何日にもわたる激しい戦いによって汗や汚れで毛穴が開いている状態になるはずで、その質感や砂っぽさをメイクで作り込んでいきました。毛穴やシミなど、人間の肌の質感をファンデーションなどできれいに消してしまうと、スクリーンやTV画面に大きく映し出されたとき、「ゴールデンカムイ」の世界観やキャラクターの迫力が伝わらないと思ったので、“皮膚感”をあえてデフォルメすることで、それぞれのキャラクターのリアルさを強調できたらと考えました。
具体的には、歯ブラシなどを使い、インクを弾いて肌の上に粒状にインクを散らして、皮膚の凸凹を作り出しています。さらに、俳優さんにもともとあるシミやクマも消さずに生かしました。人工的に作り上げた“皮膚感”となじませると、アイシャドウやアイラインといったメイクアップ要素が目立たなくなり、作りもののような感じがなくなります。
―ヘアメイクが特に難しかった、こだわったキャラクターはいますか?
舘ひろしさん演じる土方歳三は、難しかったキャラクターのひとりですね。原作の土方のビジュアルを舘さんの顔に当てはめるとき、白髪や白髭の割合や色はどのくらいがちょうどいいのか、バランスにかなり悩みました。結局、ウィッグとひげの制作は技髪デザインの荒井孝治さんにお願いし、眉毛は僕が作りました。眉毛は表情の変化に大きな影響を与えるパーツなので、できる限りメイキャップの視点で自分が作るようにしています。細かいネットに毛を1本1本編み込み、完成したものを俳優さんの顔に貼るといった手順ですね。
眉毛と言えば、中川大志さん演じる鯉登少尉も、原作では眉毛がかなり独特な形をしているので、「あの縦線みたいな部分は毛なのか刺青なのか?」と、まずはどう解釈すればいいのか悩んで…。最初は原作のように毛の縦の部分をかなり長く作ったのですが、実際に中川さんの顔に合わせてみると違和感があり、監督と相談しながら何度か作り直して、やっと今のスタイルに落ち着きました。
鈴川聖弘と犬童四郎助のメイクも大変でしたね。鈴川が犬童に変装していくシーンは、鈴川を演じる山路和弘さんの顔を、犬童役の北村一輝さんの顔に寄せられるように、2人とも似たような骨格をメイクし、鈴川にも犬童にも見えるように、特殊メイクの力を借りつつ、微調整を重ねました。
谷垣源次郎については、大谷亮平さんご本人の肌がとてもきれいだったので、思い切ってガッツリ荒れたメイクを施しました。「こんなにやっちゃって大丈夫?」と、大谷さんに心配されたくらいです(笑)。谷垣の男くささを出したかったので、肌の質感作りはほかのキャラクターよりも繊細かつ大胆に攻めました。
―江渡貝弥作(古川雄輝)の頬の縦線など、「ゴールデンカムイ」ならではの顔のパーツはどうやって表現したのでしょうか?
江渡貝だけでなく辺見和雄(萩原聖人)もですが、「ゴールデンカムイ」には顔に「線」が入ったキャラクターが結構いるんですよ。おそらくこの「線」は骨格をデフォルメしたものなのだろうと想像してうっすらシャドウで調整し、やり過ぎにならないように気を付けました。
―酒井さんの自信作と言えるキャラクターはいますか?
ドラマ版で印象に残っているのは、若山輝一郎と仲沢達弥ですね。特に、木村知貴さん演じる仲沢は、かなり原作に近い仕上がりになったと自負しています。
―髪形についてですが、土方、鯉登、谷垣以外は俳優さんの地毛でしょうか?
実は、アシ(リ)パもウィッグなんです。アシ(リ)パと鯉登に関しては、2人とも若干青みがかった毛色なので、黒い毛の表面に薄くブルーを入れて、光が当たったときだけ色が目立つ程度に調整しました。
尾形百之助は、こめかみから垂れている長い毛はエクステ(付け毛)ですが、それ以外は眞栄田郷敦さんの地毛です。ただし、尾形のアイメイクについては目尻に付けまつげを足しています。
杉元佐一の髪も山﨑賢人さんの地毛ですが、軍帽の下から出ている、跳ねている髪の形を作るのには苦労しましたね。ヘアアイロンを使って、原作とリアルの中間を狙って作り込みました。
牛山辰馬(勝矢)については、実はあのもみあげの形を作るのがかなり大変でした。髪形についても、原作ではただのオールバックではなく、頭頂部のあたりに跳ねている髪の毛があるので、その再現にも気を遣いました。
シンプルな髪形なので意外かもしれませんが、白石由竹も苦労したキャラクターです。原作ではシルバー色の丸刈りですが、黒い髪をグレーに染めてもらうには演じる矢本悠馬さんの負担が大きいので、髪を短く刈るだけにし、あの独特のもみあげは技髪チームに作ってもらいました。
―アイヌのメイクでこだわったことはありますか?
アイヌの監修の方に聞いたのですが、アイヌの方々はもともと日焼けした肌色が特徴的だったみたいで。そのことを踏まえて男性については日焼けした肌を意識しつつ、浅黒い肌感にするためにファンデーションを何色か作りました。肌の表面にはほかのキャラクター同様、“皮膚感”を出すために粒子の凹凸を足しています。文献などから得た情報も参照して眉や髪の毛量は多めにしましたね。アイヌの女性の口周りの刺青は村の住人が彫るものなので、くっきりと美しい線になり過ぎないよう、ムラのあるラインを目指しました。色味もこだわりましたね。当時使われていた刺青の染料の色の出方を研究したところ、緑の色味になることが分かったので、今回のメイクでも同じような色味を再現しています。
インカ(ラ)マッ(高橋メアリージュン)については、美意識が高いアイヌの女性がするようなきれいなメイクを意識して、口周りの刺青もあえてはっきりとラインをとり、赤やピンクの色味も使うことで華やかにデザインしました。
―最後に、「ゴールデンカムイ」におけるヘアメイクの見どころについて教えてください!
「これでどうだ!」という派手なものもありますが、たとえば小さな傷だったり、さりげないところで「おお!」と思ってもらえたら。実際は作り込んでいますが、見た方に「リアルっぽい」と感じていただけたらうれしいです!
※「アシリパ」の正式な表記は「リ」が仮名小書き
※「インカラマッ」の正式な表記は「ラ」が仮名小書き
【「ゴールデンカムイ」の監督インタビュー後編は近日中にアップ予定ッ!! お楽しみに!】
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画像(クレジット)「連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―」:/Ⓒ野田サトル/集英社 Ⓒ2024 WOWOW