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【ネタバレありッ!!】「連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―」の美術&衣装スタッフが語る! 原作の世界観を立体化していくための美術や衣装のこだわり【ゴールデンカムイ制作スタッフインタビュー④/美術・衣装編】

 皆さまこんにちは。note編集部の島本です。
 「ゴールデンカムイ」制作スタッフインタビュー第4弾は、美術・磯見俊裕さんと衣装・宮本まさ江さんにインタビューしてきましたッ!!
第1弾:監督インタビュー前編第2弾:特殊メイク&ヘアメイクインタビュー第3弾:監督インタビュー後編も要チェックッ!!)
 今回の記事ではなんと、通常公開されることのない、美術資料たちの一部を特別に公開ッ!! あのシーンのあのセットはこうやって作られていたのか…! と、ドラマの楽しみ方がより広がるはずです。
 また、原作や史実に忠実に素材や文様にこだわったり、撮影シーンごとに工夫して加工したりと、こだわりの詰まった衣装の数々も!
 改めて今回お2人にお話を伺い、これほど大がかりなドラマはなかなかないなと実感しました…!
 ドラマや映画好きの方々にはたまらない、ドラマ制作の裏側をたっぷりお届けするので、ぜひ最後までお読みいただけるとうれしいです♪

取材・文=柳田留美

「連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―」全9話独占配信中

【美術/by磯見俊裕】植物は種をまくところから、自作で準備する―。よりリアルに感じてもらうための細部へのこだわり

―「ゴールデンカムイ」の世界観を表現する上でどんなことを心掛けましたか?
特にこだわったのは、原作でもページ数が多く割かれていた、明治期の北海道・小樽を舞台にしたシーンです。当時の小樽の活況をどこまで表現できるかにこだわりました。全体の街並みは、茨城の「ワープステーション江戸」という場所にオープンセット(屋外に建造される撮影用のセット)を組んで、当時の写真や資料を参考にしながら、看板などの装飾を作り込んで当時の雰囲気にできるだけ近づけられるよう再現しました。

明治期の小樽の街並みを再現したオープンセット(映画版に登場するシーン)

また、映画や第1話など随所に登場する二〇三高地のシーンは、「戦場のリアルを感じてほしい」という想いで力を入れた部分ですね。事前にロケーションハンティングをして、撮影加工をしてOKだった場所の崖を崩して100人くらいの俳優さんたちが駆け上がることができる傾斜面を整えました。塹壕を造るために│土嚢《どのう》を2,558個作り、150メートル以上掘りましたが、岩盤だったのでなかなか掘り進めず本当に大変でした。

二〇三高地を再現するための配置図

―そのほかにもこだわった美術はありますか?
“コタン”(アイヌの集落)の再現にも徹底的にこだわりました。北海道の二風谷にぶたにという実際にアイヌの方々が住んでいる集落の近くにセットを建てたのですが、測量後に土地を開墾し、水はけが良くなるよう部分的に土を足して新たに土台を築きました。“チセ”(家)造りについては伝統技術の伝承者である尾崎剛さんにご指導いただき、アイヌの人々が建てた家を想定して、コナラ(植物)やミズナラ(植物)を使って建て、家の方角もアイヌの人々の慣習に倣って東向きにしました。最終的に資材搬入から完成まで約3カ月かかりました。

アシ(リ)パのチセ(家)のデザインイメージ

映画版に登場するのは冬のコタンでしたが、ドラマ版は雪解けした季節のコタン。チセの周囲には植物も必要なので、あらかじめ現地の土壌サンプルを採取し、どういう植物の生育に適しているか専門家に分析を依頼しました。その結果、ライ麦ならうまく育ちそうだと分かったので、映画版の撮影を始める前の秋ごろにライ麦の種をまき、ドラマ版の春先の撮影に向けて季節をまたいで準備しました。当時のアイヌには農耕の習慣があったので、畑らしさをプラスして作り込んでいます。

アシ(リ)パのコタン

―第4話に登場する「札幌世界ホテル」はどのように再現したのか教えてください。
「札幌世界ホテル」は、第4話の落合監督とも相談し、原作から読み取れるイメージを膨らませて、アメリカで起きた連続殺人事件の犯行現場となったとされる、あるホテルから着想を得ています。落合監督は、そのホテルを元ネタにしたほかの映像作品を観ていたので、具体的なイメージを細かく聞きながら、一つ一つ形にしていきました。
実際にセットとして作ったのは、1階のロビーと階段、2階の廊下や裏の通路、2階の客室、地下室、落とし穴の仕掛け。2階は、撮りたい画と人物の動線を照らし合わせながら綿密に練り上げました。実は、客室は1つしか作っておらず、内装の装飾やドアの位置を変えて別の部屋に見せる手法を採り、撮影の効率を上げました。

「札幌世界ホテル」の1Fロビー・階段の見取り図

また「札幌世界ホテル」の外観の撮影では、北海道開拓の村にある旧浦河支庁庁舎を使っているので、内装はこの建物の窓の形状などを忠実に反映しています。内装のデザインは前述の某ホテルからもヒントを得てグリーンを基調にし、建物の外壁のピンクを差し色としたカラーにして、ホテルらしさが感じられるインテリアに仕上げました。「札幌世界ホテル」は改築を繰り返している設定なので、増築部分と思われる箇所にはあえて元の建物とは異なる材質を使う工夫も加えています。「とらわれの場所」≒「柵」のイメージを取り入れたいという監督の要望を受け、柵のような縦線を強調するデザインも随所に生かしています。

「札幌世界ホテル」の外観の撮影で使われた北海道開拓の村・旧浦河支庁庁舎

―「札幌世界ホテル」のセットには某有名お笑い番組のネタも組み込まれていますよね?

そうですね(笑)。回転扉も作りました。階段が滑り台になる仕掛けは、俳優さんの安全面も考慮して作っています。
実は美術チームのメンバーに、その番組の大道具を手掛けていた人がいて。そのときの話を参考にしつつ、安全第一を意識して臨みました。

―第5話の親分と姫の小屋もセットですか?
手作りのオープンセットです。撮影に使った建造物をバラした資材をうまく再利用して作りました。コタンに限らず、建設前には造成が必要なので、周囲の草木はいったんすべて伐採しています。つまり、小屋周辺の草木はすべて後から植えたもの。なるべく、背の高い種類を選んで植えました。

通称“親分と姫”こと、若山輝一郎(渋川清彦)と仲沢達弥(木村知貴)

―第6話の江渡貝邸のセットも印象的でした!
当初はスタジオセットではなくロケを想定していましたが、剝製をたくさん飾り付けた状態でアクションシーンを撮る必要があったので、一部を除いてスタジオセットを準備しました。外観として撮影した建物と矛盾しないよう、窓の形状や位置などはその建物に合わせています。
内装に関しては、大庭信正さん率いる装飾チームが頑張ってくれました。あれだけの剝製を集めるのはかなり大変だったと思います。

江渡貝邸のデザインイメージ
所狭しと剝製が置かれた江渡貝邸

―ドラマ全体を通して、特に苦労したのはどの部分ですか?
第2話のニシン漁場ですね。昔のニシン漁については知識がなかったので、文献を調べながら作り込んでいきました。ニシンの加工に使う機械や、ニシンを運ぶための木製の背負い箱「モッコ」などの小道具はもちろんすべて自作。ロケ地周辺の現代的な建造物が隠れるよう、ニシンを保管・加工する建物も建てています。ニシン漁に使う船は、保存されている船を実測して造りました。

ニシン漁の船を造るための参考資料

それから、とにかく大変だったのがニシンそのものの扱いですね。冷凍ニシンは最初から確保していましたが、生のニシンはどのくらい調達できるか直前まで分からなくて…。身欠みがきニシン(ニシンの干物)作りの様子も再現しましたが、冷凍ニシンは身がもろく、そのままつるすと落ちてしまうという問題が発生。結局、大量の魚の体に針金を通してつるしました。ニシンの粕玉をスタッフ総出で手作りしたのも思い出です。

―最後に、ここはぜひ見てほしいという美術のポイントがあれば教えてください!
ニシン漁場はもちろん見どころですが、季節で表情を変えるコタンにも注目していただきたいです。美術スタッフのこだわりが、視聴者の方々を「ゴールデンカムイ」の世界にいざなう手助けになっていればうれしいです!

【衣装/by宮本まさ江】原作に描かれている衣装を立体化していく工程はエキサイティング!撮影シーンごとに変化していく衣装に施した工夫とは

―どのような手順で衣装を準備されたのでしょうか?
原作者の野田サトル先生が、かなり綿密な調査を事前にした上で衣装を描かれているので、それを忠実に再現するのが大前提。すでに出来上がっている世界観を、いかに立体化できるかを意識して準備しました。

それぞれのキャラクターの衣装もすでに原作の中で描かれているものなので、絵から読み取れる素材感やその時代の色をできる限り生かしたいと考えました。明治期の時代考証についてはこれまでにも経験があるので、自分が培ってきたアイデアを膨らませつつ、助監督から頂いた資料も参考にして衣装制作のプランを練りました。最終的には、監督と相談しながら詳細を詰めていきました。

―これまで輝かしいキャリアを築かれてきた宮本さんですが、あれだけの数のアイヌの衣装を作るのは大変だったのではないでしょうか?
そうですね。『北の零年』(’05)という作品で豊川悦司さんが演じるキャラクターのアイヌ衣装を手掛けたことがあり、地域によって文様が違うことはその時から知っていました。ただ、今回のようにあれだけの数のアイヌの衣装を作るのは初めて。多少の不安はありましたが、それよりも「楽しみ!」という想いが勝っていたというのが本音です。

まずは原作を読み、北海道のウポポイ(民族共生象徴空間)と二風谷に行き、たくさんのアイヌの衣装を見てきました。二風谷のアイヌ文化博物館では、所蔵されている着物もすべて写真に撮らせていただいて。その中には、野田先生が原作の中で描いているのとそっくりな文様もあって驚きました。野田先生がいかに緻密な下調べをされた上で「ゴールデンカムイ」という作品を描いたのか、それを肌で感じて震えましたね。

また、アイヌの衣装については秋辺デボさんに監修をお願いしました。デボさんを訪ねて北海道の阿寒町を訪れた際には、アイヌコタンにも足を運び、直接アイヌの方たちからお話を聞いたりもしました。

―アイヌの衣装は一着一着、すべて文様が異なると伺いました。
はい。住んでいる地域や年齢によって、アイヌの衣装の文様はすべて異なります。いずれもデザインはできる限り原作を踏襲しています。
アシ(リ)パの衣装はとことん原作に忠実であることを目指し、刺しゅうのあしらいについては二風谷を代表するアイヌ工芸家の関根真紀さんにお願いしました。さまざまなシチュエーションでの撮影に備え、アシ(リ)パの衣装は3着準備しました。ちなみに、杉元に至ってはアクションなども多いので、5着です。

原作に忠実に再現されたアシ(リ)パのアイヌ衣装

―杉元の着物や土方のパンツの生地もこの作品のための特注だとか。
はい。素材を選ぶ際には、その当時に実在していたものを優先的に選ぶようにしているので、ナイロンやポリエステルといった化学繊維は極力使いませんし、原作に描かれている衣装を再現するのに適した素材がない場合は、元となる生地から作っているんです。過去に担当した作品の中では、平安時代の着物をすべて織ってもらったこともあります。

生地から制作した杉元の着物(右)

―今回手掛けられた衣装の中で、お気に入りの一着はありますか?
土方の衣装はうまくいったのではないかと自負しています。第七師団の軍服にはメルトンという厚手のウール生地を使っていますが、土方はサラッとした印象に仕上げたかったので、「ギャバ」という柔らかいウール生地を選びました。そのかいあってシルエットがきれいに出て、土方を演じる舘ひろしさんの立ち居振る舞いにピッタリ合っていたと思います。
白石のはんてんも、ストライプの柄を手で刺しゅうしたこだわりの一着ですね。また、杉元のコートも5、6回色出ししてやっと行き着いた渾身こんしんの一着です。原作のカラー画をお手本にしながら色を出し、杉元役の山﨑賢人さんに着てもらって、映像で見たときのベストな色合いを探りました。

第七師団のウール生地を使用した衣装
素材にこだわった土方の衣装

―ドラマ版で登場するキャラクターの衣装で印象に残っているものがあれば教えてください。
家永ですね。スカートの後ろの部分にバッスル(腰当て)を入れて膨らませたスタイルで、過去に作った衣装をベースにアレンジしました。実は、撮影のために用意できたのは一着だけ。きれいな状態と爆破でダメージを受けたドレスのシーンを交互に撮影する必要があったので、爆破のシーンではドレスと同じ生地を汚して上からかぶせるなど、さまざまなテクニックを駆使して乗り切りました。とにかく一点物なので、家永を演じる桜井ユキさんが撮影の合間に休憩する際にも、形を崩さないように背もたれがない椅子に座っていただくなど、スタッフ総出で慎重に取り扱ったのを覚えています。

家永(左)のふんわりとしたスカートは腰当てを入れて形が崩れないように工夫

一着しか準備がないという点で苦労したのは若山も同じですね。実は、撮影順としては熊と格闘してコートがボロボロになるシーンが先だったんです。一着しかないコートを切り刻むわけにもいかず、部分的に生地を縫い合わせるなどして、切れたように見せる工夫を凝らしました。汚れた感じは特殊な粉で演出し、別のシーンではそれをきれいに落とし、縫い合わせた部分をほどいて撮影しました。
例えばですが、銃で撃たれるシーンで衣装に穴を開けたくない場合なども、生地をつまんで縫い合わせて穴に見えるよう加工したり。衣装の工夫でどこまでリアルな表現ができるか追求するのも、この仕事の面白さの一つですね。あとは、辺見の衣装も印象に残っています。寒い中、あのふんどし一丁ですからね(笑)。

若山の一着のコートをシーンごとに工夫して撮影
辺見のふんどし姿

―最後に、衣装のお仕事で一番ワクワクする瞬間を教えてください!
やっぱりプランニングの段階が一番ワクワクしますね。台本を読んでそれぞれのキャラクターを自分なりに解釈して形にしていくのも面白いですし、「ゴールデンカムイ」のように原作がある作品の場合は、原作にどこまで忠実に再現できるかを考え、自分なりに料理していく過程がエキサイティングです。衣装合わせで俳優さんに出来上がった衣装を着てもらい、監督をはじめスタッフの皆さんに納得していただけた瞬間に感じる達成感は格別。その点において、「ゴールデンカムイ」はとりわけ“料理のしがいがあった”作品と言えますね。

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【島本プロフィール】
入社6年目。
幼い頃から大のドラマ好きで、好きなセリフはノートに書きためています。
いろいろなテイストのドラマを見ますが、ちょっと生きづらい人の背中を押してくれるような温かいドラマが特に好きです。

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「連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―」:Ⓒ野田サトル/集英社 Ⓒ2024 WOWOW