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映画ライターSYOの「#やさしい映画論」

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映画ライターSYOさんによるコラムをまとめたマガジンです。SYOさんならではの「優しい」目線で誰が読んでも心地よい「易しい」コラム。俳優ファンからコアな映画ファンまでをうなずかせ…
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#シネピック映画コラム

『余命10年』の坂口健太郎に、彼自身が持つ“人間力”を痛感する

文=SYO @SyoCinema  俳優はさまざまな人物を演じる職業だが、その中でも“器”である本人の人柄を感じさせる瞬間は往々にしてあるものだ。善人がはまる俳優だったり、あるいはそれを逆手にとって極悪人を演じさせてみることでギャップを狙ったり――。パブリック・イメージは本人にとってつえにもかせにもなり、どう付き合っていくかでキャリアが構築されていく。  坂口健太郎においては、本人の人間性がにじみ出るような好青年を多く演じてきた。常識人であり、他者の痛みを想像できる人物で

エッジの利いた役に挑戦する鈴木亮平。ブレない体幹に裏打ちされた“分厚さ”を考察する

文=SYO @SyoCinema  脳内で顔を思い浮かべるとき、なぜかいつも笑顔の人がいる。きっとそれは、自分のその人に対するイメージが「明るさ」や「優しさ」、「包容力」で埋め尽くされているからなのだろう。俳優・鈴木亮平は、自分にとってそんな存在のうちのひとりだ。  演技の体幹の良さ、とでもいうのだろうか、画面に映る鈴木亮平の芝居は、まずもって軸がブレない。それは人物によらず、ひょっとしたら演じている人物=役とは別のレイヤーにあるのかもしれない、と思わされる。つまり、器で

役を“終わらせない”俳優・伊藤万理華の真骨頂を堪能できる―『サマーフィルムにのって』

文=SYO @SyoCinema  2017年末に乃木坂46を卒業し、5年弱。近年、映画・ドラマ・舞台周りで「伊藤万理華」の名前を聞く機会が増えた。それはすなわち、彼女の俳優としての活躍の場が順調に拡大しているからに他ならない。  2020年には、「もし乃木坂46のオーディションに落ちていたら?」という設定のマルチバース的なLINE動画企画「私たちも伊藤万理華ですが。」で4役を演じ、2021年には「お耳に合いましたら。」で地上波連続ドラマ初主演。直近では、WOWOWオリジ

『ドライブ・マイ・カー』は観る者の中で「成長していく」豊かな作品だ

文=SYO @SyoCinema  第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞、国際映画批評家連盟賞、エキュメニカル審査員賞、AFCAE賞の4冠に輝き、第94回アカデミー賞では作品賞を含めた4部門にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』が、7月23日(土)にWOWOWで初放送を迎える。これを記念して、濱口竜介監督特集や西島秀俊出演特集の放送も決定。日本映画の歴史を変えた本作に至るまでの両者の軌跡を楽しんでいただきたい。  『ドライブ・マイ・カー』がどういう

林遣都と小松菜奈の“濃さ”が起こす化学反応から、異色の恋愛映画『恋する寄生虫』の魅力を紐解く

映画ライターSYOさんによる連載「#やさしい映画論」。SYOさんならではの「優しい」目線で誰が読んでも心地よい「易しい」コラム。“濃い作品”に次々出演する俳優、林遣都と小松菜奈が初共演を果たした『恋する寄生虫』('21)の魅力を紐解きます。 文=SYO @SyoCinema  俳優とは因果なもので、作品の中で存在感を示せば示すほどイメージが染みつき、時として囚われてしまうもの。しかもこれは本人というより視聴者側に生じるものであるため、アンコントロールな領域でもある。  

映画『東京リベンジャーズ』の魅力を分析。メディアミックスの成功例にみる“原作の構造的面白さ”

文=SYO @SyoCinema  『東京リベンジャーズ』が漫画・アニメ・実写映画・舞台とすべてで大ヒット中。メディアミックスの完璧な成功例といえるだろう(原作の表記は「東京卍リベンジャーズ」だが、本稿では前者で統一する)。原作漫画の累計発行部数は2020年9月には500万部だったが、約1年で約8倍の4,000万部にジャンプアップ。2022年1月時点で累計発行部数は5,000万部を突破し、驚異的としか言いようがない。  テレビアニメが放送開始されたのは2021年の4月、実

菅田将暉が醸し出す“リアリティ” ―演技のテクニカル面を超えた凄(すご)み

文=SYO @SyoCinema  菅田将暉×2021年は、興行収入約38億円超のヒットを記録した『花束みたいな恋をした』(’21)に始まり、彼の真骨頂である“嗅覚”をひしひしと感じさせられる1年だった。  『キネマの神様』(’21)で大御所・山田洋次監督の薫陶を受け、『CUBE 一度入ったら、最後』(’21)ではカルト的な人気を誇るスリラーの日本リメイクに挑戦。写真家・森山大道のドキュメンタリー映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』(’20)

『地獄の花園』の永野芽郁が“最強”な理由——親しみやすさ+ハイカロリー演技!?

文=SYO @SyoCinema  カッコいい、美しい、面白い、演技がうまい……。人気俳優には、それぞれ視聴者や観客が魅了される特性が備わっている。ここ5~6年ほどでスター俳優へと上り詰めた永野芽郁においては、俳優としての“華”はもとより「応援したくなる度」が圧倒的な印象だ。観る者が思わず好きになってしまう親しみやすさと、純度の高い真っすぐな演技。今回は、そうした永野の魅力と、それを逆手に取った『地獄の花園』('21)を紹介する。  自分が永野芽郁という俳優を明確に認識し

『あの頃。』に見る松坂桃李の“受け”の魅力

文=SYO @SyoCinema  松坂桃李と今泉力哉監督が初タッグを組んだ『あの頃。』(’21)が、2月にWOWOW初放送される。それを記念し、松坂の出演作品も特集放送。『あの頃。』のほか、『ツナグ』(’12)、『エイプリルフールズ』(’15)、『真田十勇士』(’16)、『娼年[R15+指定相当版]』(’18)『居眠り磐音』(’19)、がラインナップされており、松坂の演技と役柄の幅広さが感じられる作品群と言えるだろう。  2009年の『侍戦隊シンケンジャー 銀幕版 天下

佐藤健演じる「剣心」に深く踏み込んだ『るろうに剣心 最終章』2部作を観た後、再び第1作に戻ってほしい

文=SYO @SyoCinema  WOWOW公式note「映画のはなし シネピック」をご覧の皆さま、SYOと申します。2019年からコツコツと書かせていただいた俳優&作品をただただ愛でるコラムが「#やさしい映画論」として連載へと進化しました! ライターとしての礎を作って下さったWOWOWのシネピックに感謝しつつ、スタンスはこれまでと変わらず、内容はここからさらにパワーアップしてお届けできればと思います。皆さま、今後ともどうぞよろしくお願いいたします! ―――――――――

岡田将生だからこそ魅せられる“人の怖さ”『さんかく窓の外側は夜』を起点に読み解く

文=SYO @SyoCinema  漫画やアニメのキャラクターに必殺技があるように、名だたる俳優たちにも「このゾーンを演じさせたら右に出る者はいない」という武器がある。近年、怒涛の勢いで出演を重ねる人気実力派、岡田将生に当てはめて語るなら、それはやはり「狂気」と言わざるを得ない。  彼が魅せる“人の怖さ”というものは、凍りつくほど冷徹で、それでいて夢に見るほど生々しい。ほれぼれするほどに端整な顔立ち、取材時などに見せてくれる温厚かつ柔和な姿や困ったような笑顔を目にしていて

菅田将暉×有村架純主演の『花束みたいな恋をした』は“超・共感型”の映画だ

文=SYO @SyoCinema  2021年が始まって、すぐのこと。1本の映画がブームとなった。菅田将暉と有村架純がW主演し、人気脚本家の坂元裕二が脚本を務めた土井裕泰監督作『花束みたいな恋をした』('21)だ。1月29日に封切られたこの映画は、なんと約半年間にも及ぶ異例のロングランを記録。リピーターが続出し、興行収入も40億円に迫るヒットとなった。  「はな恋症候群」とでも呼ぶべきフォロワーを多数生み、ロケ地への“聖地巡礼”を行なうファンも後を絶たなかった本作。コロナ

『罪の声』で静の演技に徹した小栗旬と星野源。“声なき人々”の声に耳を傾ける

文=SYO @SyoCinema  ハリウッド映画『ゴジラvsコング』(’21)や菅田将暉主演作『キャラクター』(’21)まで、幅広く活躍し続ける小栗旬。ミュージシャンとして、俳優として、近年ますます影響力が拡大している星野源。両者が“バディ”として共演した2020年のヒット作『罪の声』が、早くもWOWOWで初放送を迎える。  大泉洋主演で映画化された「騙し絵の牙」でも知られる人気作家、塩田武士のベストセラー小説を映画化したヒューマン・ミステリー。ドラマ「逃げるは恥だが役

クリストファー・ノーラン監督を『TENET テネット』と過去作から考察。彼は発明家であり職人だ

文=SYO @SyoCinema  クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』(’20)が、早くもWOWOWで初放送を迎える。  全世界がコロナ禍にあえぐ中、2020年9月に日本公開され、興行収入27億円(※)を記録した本作。東京・グランドシネマサンシャイン 池袋においては、IMAXのオープニング興行収入が世界第1位となり、ノーラン監督から感謝状が届いた。  これまで観たことのない「逆行」をテーマにした『TENET テネット』は映画好きのみならず大いに