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安田菜津紀「観て、学ぶ。映画の中にあるSDGs」

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SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットにて全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す1… もっと読む
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#SDGsへの向き合い方

この社会でマイノリティーとして暮らす人々が、より生き心地のよい社会となるよう、『RENT/レント』が色あせることなく、社会に響き続けることを願う

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、トニー賞ほか数々の賞に輝いたブロードウェイのロングラン・ミュージカルを映画化したクリス・コロンバス監督作『RENT/レント』('05)だ。製作でロバート・デ・ニーロも参加している。 (※9/7(木)後4:05、ほかリピート放送あり)  マーク役のアンソニー・ラップほかミュージカルの初代キャストらも出演し、ボヘミアンたちの1年を、巡りゆく季節とともに描く。貧困や病、差別の渦巻く時代にありながらも、時に手を携

ジェンダー平等はどこまで実現しているのか――『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』をきっかけに私たちの足元を見つめたい

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、#MeToo運動が広がるきっかけともいえるニューヨーク・タイムズ紙の調査報道を題材にしたマリア・シュラーダー監督作『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』('22)。ブラッド・ピットらが製作総指揮を務め、記者役のキャリー・マリガンが第80回ゴールデン・グローブ賞助演女優賞にノミネートされた作品だ。 (※8/20(日)後9:00、ほかリピート放送あり)  記者たちが報じたのは映画界の大物プロデューサ

『ザリガニの鳴くところ』から、ウィシュマさん死亡事件を考える――社会を前に進めるために

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、全世界で1,500万部以上を売り上げたディーリア・オーエンズの同名ミステリー小説を映画化したオリヴィア・ニューマン監督作『ザリガニの鳴くところ』('22)。 (※7/16(日)後9:00、ほかリピート放送あり)  リース・ウィザースプーンが自ら映画化権を獲得し製作を担当。テイラー・スウィフト自ら楽曲参加を懇願した作品だ。湿地帯の自然の中、たった一人で生き抜いてきた主人公カイアの半生から、SDGsの「目標5

余命と向き合う人の最期の日々をどのように守れるか――『愛する人に伝える言葉』から考える

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのはエマニュエル・ベルコ監督による『愛する人に伝える言葉』('21)。 (※6/8(木)後10:45、ほかリピート放送あり)  ステージ4の膵臓がんだと宣告された息子バンジャマンをブノワ・マジメルが演じて、第47回セザール賞で主演男優賞をみごと受賞。その母親クリスタルをフランスの至宝であるスター女優、カトリーヌ・ドヌーヴが演じている。この感動のヒューマン・ドラマを題材に、余命と向き合う人々の尊厳をどのように守れ

技能実習制度の廃止と共に人命・人権を守れる制度が新たに創設できるか――是枝裕和監督作『ベイビー・ブローカー』から考える

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、是枝裕和監督が韓国の名だたる俳優陣と手掛けた『ベイビー・ブローカー』('22)だ。 (※5/7(日)後9:00、ほかリピート放送あり) 「赤ちゃんポスト」をきっかけにつながる人間同士のドラマが、オリジナル脚本で描かれている。登場人物たちが複雑に背負ってきたものを読み解き、SDGsの「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」「目標11:住み続けられるまちづくりを」の観点から、社会の基盤づくりを考えます。 レ

圧倒的に低い日本の難民認定率――アカデミー賞候補となったドキュメンタリー・アニメから考える

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、第94回アカデミー賞で3部門にノミネートされるなど高い評価を受けたヨナス・ポヘール・ラスムセン監督作『FLEE フリー』('21)。 (※4/9(日)後10:45、ほかリピート放送あり)  アフガニスタンから脱出した青年アミン(声:アミン・ナワビ)が自らの経験を語るドキュメンタリーだ。主人公や周囲の人々の安全を守るため、実写ではなくアニメーションを用いて制作された。この映画と今の日本社会を重ね、SDGsの

国境が運命の線引きになってはならない――ヴェネチア国際映画祭で問題提起されたドキュメンタリーから考える

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げる映画は、ジャンフランコ・ロージ監督が3年以上の月日をかけ、イラク、シリア、レバノン、クルディスタンの国境地帯で撮影し、第77回ヴェネチア国際映画祭でユニセフ賞など3冠に輝いた秀作ドキュメンタリー『国境の夜想曲』('20)だ。  国境により引き裂かれ、テロや侵略、圧政に直面してきた人々がこれ以上未来を絶たれないよう、何が求められているのか。SDGsの「目標10:人や国の不平等をなくそう」とともに考えます。 「ク

『ストレイ 犬が見た世界』が捉えた犬の視線の先にあるもの――忘れられた戦争、そしてトルコ社会でいま起きていること

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、トルコのイスタンブールの路上で、愛犬家でもある米国のエリザベス・ロー監督が、2年間にわたってストレイドッグ(野良犬)の暮らしを追った『ストレイ 犬が見た世界』('20)。  北米を代表するドキュメンタリー映画祭のひとつ、Hot Docsカナダ国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀国際ドキュメンタリー賞を受賞。犬たちの視線で撮影された映像からは、表面をなでるだけでは見えてこない、街の姿が浮かび上がってきます。こ

ウクライナからの難民を取材するため訪れた地で、目の当たりにした「命の線引き」――『アンネ・フランクと旅する日記』が教えてくれること

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、『戦場でワルツを』('08)のアリ・フォルマン監督がアニメーションで独自の世界観を描き出し、第34回ヨーロッパ映画賞の長編アニメ映画賞にノミネートされた映画『アンネ・フランクと旅する日記』('21)。  第2次世界大戦下のホロコーストによって15歳で命を落としたユダヤ人少女、アンネ(声:エミリー・キャリー)が綴った日記、「アンネの日記」。その日記に出てくる空想上の友達、キティー(声:ルビー・ストークス)が

クラウス・バルビーがののしった、性的マイノリティーの人々やロマの人々は、その後、どうなったのか――マルセル・マルソーの実話を、「知る」ための入り口に

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、ナチスドイツにあらがった一人の若者の実話を基に描かれた『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』('20)。  SDGsの「目標10:人や国の不平等をなくそう」「目標16:平和と公正をすべての人に」を軸に、第2次世界大戦や今起きている戦争で、よりかき消されがちな声のことを考えます。 (SDGsが掲げる17の目標の中からピックアップ) 当時、ナチスドイツの迫害の対象になったのはユダヤ人だけではな

東日本大震災からの漁師たちの歩みと重なる映画『くじらびと』――「豊かに生きる」とは何か?

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、石川梵監督が足かけ30年通い続けるインドネシア・ラマレラ村の人々と、命懸けのクジラ漁を追った壮大なドキュメンタリー『くじらびと』('21)。  時に厳しく牙をむく自然と向き合う人々の姿を通し、SDGsの「目標14:海の豊かさを守ろう」をともに考えます。 (SDGsが掲げる17の目標の中からピックアップ) 街を破壊し、人の命を奪った海に、なぜ人はもう一度戻っていくのだろうか?  東日本大震災発生からまだ

核兵器が再び現実の脅威として突きつけられている今、考える――人の声には、世界を数センチずつでも、着実に前に進める力があるはずなのだ

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、太平洋戦争中、日本で実際に進められていた“原爆研究”を基にした『映画 太陽の子』('21)。  若き研究者たちは葛藤しながらも、「この研究で戦争が止められるかもしれない」と実験に邁進した。核兵器が再び現実の脅威として突きつけられている今の社会に何を投げかけるのか。SDGsの「目標16:平和と公正をすべての人に」と共に考えたい。 (SDGsが掲げる17の目標の中からピックアップ) 核兵器廃絶へ新たな一歩

暴力には毅然と「NO」と言える輪を――映画から考えるロシアによるウクライナへの軍事侵攻

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、第79回アカデミー賞で国際長編映画賞の前身となる外国語映画賞を受賞したドイツ映画『善き人のためのソナタ』('06)。  東西冷戦末期の東ドイツを生きる表現者たちには、常に権力者たちの監視の目がつきまとう。言論の自由が奪われる危機感は、現在のウクライナとロシアを巡る動きにも重なるものがある。SDGsの「目標16:平和と公正をすべての人に」「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」を切り口に、この映画から今、世界

どんな人間であったとしても、もう一度人生を「生き直す」権利はある――バラ作りの映画から読み解く思い

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、バラ育種家の主人公が、素人3人を頼みの綱に、世界最高峰のバラ・コンクールに挑んでいく映画『ローズメイカー 奇跡のバラ』('20)。  のどかなバラ園で繰り広げられるドラマから、SDGsの「目標8:働きがいも経済成長も」「目標16:平和と公正をすべての人に」を考えていきます。 (SDGsが掲げる17の目標の中からピックアップ) 「家族の絆」という型からこぼれ落ちてしまい、そんな自分を責め続けている人もい